無償化に伴うメリットとデメリットを十分に理解し、検討することが重要です。
学校給食費の無償化を考える
学校給食費無償化の経緯
学校給食費無償化の背景
給食費無償化とは、学校給食の費用を生徒の保護者から徴収せず、自治体や国が公費を用いて賄う制度のことです。
そもそも、学校給食のはじまりは、1889年、山形県の日本海沿岸の南部に位置する鶴岡町(現・鶴岡市)の忠愛小学校で、貧困児童を対象に無償で行われたことに端を発しています。
経済的問題では、まず家計で切り詰められるのは食費と言われてます。
貧困が原因で朝ごはんぬきで学校に登校、両親が働いているため家で1人きりのコンビニ弁当、食事難や孤食と称される子どもの貧困が社会問題になるなかで、無償で食事を提供する「子ども食堂」が活発化しています。
学校給食は、「子ども食堂」以上に重要な役割を果たしていますが、公立の小中学校の学校関連の費用のなかで大きな割合を占めているのが学校給食費となっているのが現状です。
2023年に公表された文部科学省の学校給食実施状況等調査では、平均月額小学校で4,477円、中学校で5,121円となっています。
学校給食費無償化のはじまり
山口県和木町 ≫ は、戦後まもなく実施された学校給食制度より公費負担(学校給食費無償化)を継続している唯一の自治体です。
2019年度からは、町外の保育施設等に通うお子さんに対しても、給食費の一部を助成しています。
給食費の無償化を実施するのは、町村など人口の少ない自治体が多い、市では、兵庫県相生市 ≫ が、2011年より幼稚園から中学校までの学校給食を無償化しています。
東京都では、江戸川区が1974年から学校給食費の一部1/3補助をスタートしました。
2017年に、全国の都道府県教育委員会を通じて、1,740自治体に実施された、学校給食費(食材費)の無償化等の実施状況及び完全給食の実施状況の調査によると、無償化を実施している自治体は4.7%となっています。
無償化を実施している自治体を細かく見ると、
- 小学校・中学校ともに無償化76自治体(4.4%)
- 小学校のみ無償化が4自治体(0.2%)
- 中学校のみ無償化が2自治体(0.1%)
無償化を実施しているは82自治体を見ると、71自治体(93.4%)が、町村かつ人口1万未満が、56自治体(73.7%)でした。
山梨県早川町の取り組み
給食費の無償化の現状
文部科学省が2022年7月末に行った調査によると、給食費の負担軽減策を「実施している」又は「実施を予定している」と答えた自治体は、合わせて1,491で、これは全体の83.2%に上ります。東京23区の例
2023年4月時点では、給食費の無償化を実施しているのは8つの区(中央区、台東区、品川区、世田谷区、荒川区、北区、葛飾区、足立区※です。
2023年4月に行われた統一地方選でも学校給食費の無償化は、争点のひとつになりました。2023年9月からは港区、文京区、墨田区、板橋区、江戸川区が、10月からは江東区、目黒区、杉並区もも無償化が予定されています。(2023年9月30日時点)
- 小学校は10月から
文部科学大臣の記者会見から
2023年5年3月22の日永岡桂子文部科学大臣記者会見からの抜粋です。記者:今の給食費の問題に関連して伺いたいんですが、給食費はこれまで基本的に自治体がやるもので国は直接関わってこなかったと思うんですけど、国がそこの支援にコミットしていくということについてはどのようにお考えですか。
大臣:今おっしゃいますように、やはり自治体と学校設置者と、それからあとは親御さん・PTAの話し合いでですね、決めていくものと承知はしております。
しかしながら、給食費の話になりますとやはりしっかりと給食が提供されているお子さんもいれば、全く提供されていないお子さん、つまりお弁当を持ってきなさいと、そういう地域もあるんですね。
ですから日本を挙げてですね、給食費を無償化するということにつきましてはやはり相当綿密な議論が必要だと、そういうふうに考えております。
給食費無償化のメリットとデメリット
給食費無償化のメリット
給食費の集金事務や滞納対応の解消
給食費が無償化されると、給食費を集金する手間や時間が大幅に削減されます。給食費の請求や集金、さらには滞納があった場合の催促といったプロセスは、教職員の時間や精神的負担をもたらしていますが、給食費無償化によって、これらの時間やエネルギーを教育や勉強に向けることができます。
学校給食費などの公会計化
給食費の無償化とは別に、学校給食費などの公会計化が進んでいます。 公会計化とは、学校給食費などの管理を学校に委ねず、自治体の会計に組み入れる徴収する制度で、公会計化の導入により、教職員による給食費集金事務に関わる問題は解消されます。貧困世帯の経済的負担の軽減
低所得世帯にとって給食費の家計負担は大きく、多子世帯ではその負担感はさらに増します一部の家庭では、給食費が家計への影響を及ぼすことで、子どもたちに必要な学びの機会を奪うこともあります。
こうした負担がなくなることで、子どもたちに学びの機会や成長に必要な費用を割り当てることが可能となります。
給食費無償化のデメリット
自治体の財政負担
給食費の無償化が子どもたちに与える恩恵は、確かに多大なものです。しかし、同時に大きな財政的負担が伴います。無償化を実現するには、限られた予算から費用を捻出が必要があります。 新たな財源を確保するには、他の公共サービスを削減するか、新たな税制を導入するなどの対策が必要となります。その結果、わたしたち保護者の負担が増える可能性があるということも考慮しなければなりません。資源の配分
給食費無償化の制度が導入されると、一定規模の予算や資源を給食費無償化に集中させる必要があります。 その結果、他の教育施策や施設の改善など、教育全体の質に対する投資が不足する可能性があります。給食の質や量の低下リスク
給食費無償化に伴う財政負担の増加は、食材費や調理費の削減を引き起こす可能性があり、新鮮で高品質な食材の使用制限、安価な食材の使用など、給食の質や量の低下が懸念されます。学校給食の費用を家庭が担うことは、家庭が食材や内容についてしっかりとコミットし、監視する役割も担ってくれます。無償化により家庭の関与が薄まるリスクがあります。
- 「意識の低下」に関する内容は、「保護者の責任感や自立心が失われる可能性」欄と一体としました。
一部の人々からは、給食費が無償化されると、保護者の子育てに対する責任感や自立心が薄れる可能性があるという見解や、給食に対する意識低下により、十分な感謝や責任感を持てなくなる可能性があり、給食を無価値なものと見なし、食べ残しや無駄な行動が増えるという声も聞きます。
こうした声は、給食の公費負担によって子どもに対する生活費の負担が減り、保護者自身が子どもを育てるという自立的な立場が損なわれる可能性があるという観点からと考えます。
こうした見解は、家庭の教育方針や保護者の価値観によって大きく異なり、給食費の無償化の影響とは異なる問題と考えます。
無償化の制度を考えよう
政策の持続可能性
就学援助は給食費無償化制度を代替できるか?
就学援助とは、経済的な理由によって就学困難と認められる、就学予定者または在籍する児童生徒に対し、義務教育の円滑な実施に役立てるための就学奨励対策として、生活保護法に基づく教育扶助費(福祉事務所所管)の支給のほか、学校教育法に基づく就学援助費の支給を行う制度のことです。
実施主体となる市町区村が行う就学援助によって、学校給食費をはじめ、学校で必要な文房具・楽器などの学用品代や、クラブ活動費などが支給されています。
就学援助の支援を受けている小中学生(要保護児童および準要保護児童)は、2021年度では全国で129.6万人、就学援助率は14.2%で、約7人に1人が就学援助の支援を受けてます。
就学援助申請については、就学援助制度を知っていても手続きの煩雑さ、貧困家庭であることを知られたくないという思いから、申請にいたらないケースも少なからず発生しています。
就学援助の申請書の提出方法を見ると「希望者が学校に提出」795市町村(45.0%)が最も多くなっています。
一方で、申請の有無にかかわらず、全員に申請書の提出を求めて申請希望の有無について確認」を行っている自治体もあります。
こうした点の改善を進めないと、同制度を必要とする子どもたちに、サービスが届かない可能性も考えられます。
児童扶養手当(厚生労働省所管)は、ひとり親家庭を対象とした支援制度ですが、就学援助制度(文部科学省の所管)はひとり親家庭に限らず、小学校または中学校への就学が困難な児童・生徒の保護者を対象した支援制度です。
就学援助制度の審査基準は、住民税が非課税の世帯、児童扶養手当を受給されている世帯など自治体により異なりますので、迷ったら申請してみることをお勧めします。また、児童扶養手当と就学援助制度は、条件を満たす場合、同時に支援が受けられます。
申込手続、援助内容等は各区市町村により異なりますので、詳細はお住まいの自治体にお問合せください。
社会全体が検討すべき問題
給食費の無償化は、社会的、経済的、教育的な観点から見ても多岐にわたる影響を及ぼす複雑な問題です。
無償化に伴うメリットとデメリットを十分に理解し、検討することが重要です。
これは国や自治体だけでなく、社会全体が共に検討すべき問題であると言えるでしょう。