学校長や教職員によるPTA事務の委任 学校徴収金としてPTA会費の徴収は?
PTA事務の学校委託
PTA会計とは
PTAは、保護者と教職員が協力して、児童や生徒の健全な成長を図ることを目的とした組織です。
学校及び家庭における教育に関し理解を深め、その教育の振興につとめ、教育環境を整え、さらに校外における児童生徒の生活の指導、地域の教育環境の改善、充実を図るために、会員相互の学習その他必要な活動を行なう団体とされています。
PTA団体は、保護者及び教職員をもって構成され、その活動は会員からの会費によって運営されています。
PTA会計とは、PTA規約や活動方針に基づいたPTA活動に必要な経費の収入支出を適正に処理するための会計です。
PTAと学校とはその歴史的な経緯から直接・間接に支援関係にあるため、公立学校においてはPTAの事務の一部、特に会計、中でも会費徴収に関する事務が学校に委任されているケースが多く存在しています。
本来、PTAは学校とは別個の独立した団体であり、従来から指摘のある学校後援会的な性格から脱皮し、望ましいPTA像を確立し、事務的にも独立した団体として活動することが期待されています。
学校長や教職員によるPTA事務
公立学校の教職員が勤務時間中にPTAの案内等を生徒・児童に配布したり、その説明をしたりする行為は公務員の職務専念義務に反するという主張もあります。
一方で、PTAは任意団体ですが、学校運営に不可欠なものとして社会に理解されているという側面もあります。
PTA活動は、設立当初から教職員と保護者とで構成された団体が学校教育活動と不即不離の関係を保ちながら、当該学校の適正かつ円滑な運営に寄与してきました。この結果、教職員によるPTA活動と公務とが明確に区別しにくい状況が生じてきたことも事実です。
学校長や教職員が、公務と明確に区分されていない状態でPTA事務を行っている場合は、自治体による事務規程などの整備と運用が必要です。また、当該事務を職務専念義務免除の対象とする必要性についてをPTAと学校で協議するなどの対応が必要と考えます。
関連する法律
地方公務員法
教育公務員特例法
自治体の規程など
学校長などがPTAの会計事務を行っている場合
PTAは学校とは異なる団体であるため、教育公務員特例法の規定により、学校長などがPTAの職を兼ね、PTAの会計事務を行う場合には、教育委員会の承認が必要と考えられます。自治体の兼職兼業に関する事務取扱規程(例)
なお、団体とは、学校関係団体(PTA・同窓会・後援会等)、教育に関する公益財団法又は公益社団法人、教育に関係している非営利型法人である一般財団法人を指します。
- 公務の遂行に支障がないこと
- 教員としての信用を失墜させるおそれがないこと
- 報酬を得る場合、受領する額が当該業務の対価として社会通念上妥当な額であること
教員がPTAの会計事務を行うことについて
教員の長時間労働が社会問題とされている中、教員がPTAの会計事務(兼職兼業)を行う場合には、申請書の提出以前の問題として、教員本来の業務に障害はないと確実に言えるのかどうかについての疑問が残ります。
保護者が会計事務を行うことはできないのか、学校の事務職員等が事務を行う余地はないのかなど、代替的な方法についても、検討する必要があると考えます。
注意すべきポイント
教員以外の学校事務職員でも、法令等に違反する可能性がある事例です。- 教育委員会の承認がない状態で、事務職員が勤務時間内にPTA会計の事務処理を行うこと
- 事務職員が、勤務時間内にPTA会計の事務を行う場合「役員、職員等の地位を兼ねること」の規定がある場合、事務職員がPTAの役員等を兼ねることなくPTA会計の事務処理を行うこと
学校徴収金の適正な処理
学校徴収金としてPTA会費
PTA会費を諸費用と併せて学校徴収金として、学校が一括で集めていることの合理性はあるものと考えます。
一方で、PTA独立の原則がありながら、学校がPTA会費を集めることについて、保護者への明確な説明がなく、学校においても「以前からこのように行っている」と認識しているようなケースの場合は問題があります。
このような「慣習」として、学校とPTAの関係性を続けることは、業務委任関係やそこから生ずる義務などについて、相互認識のずれが生じる場合があります。
例えば、保護者に加入意思を問う前に、保護者からPTA会費を引き落としをしてしまうなどのケースは、PTAと学校の間で業務委任契約を締結し学校側が受任者として必要な注意義務があれば防げる事例でしょう。
PTA会費徴収に関するPTAと学校との委任関係のあり方などについて、当事者であるPTAの独立性を考慮すべき点もあり、学校とPTAとの間で改善していくことが本来の姿であると考えますが、自治体による対応も必要と考えます。
具体的には、以下の観点から保護者等への周知徹底、関連部署の事務取扱の改善が挙げられます。
- PTA団体への任意加入説明、加入意思確認
- PTA会費徴収に関するPTAと学校の委任関係
- 保護者への通知文書の内容や留意点
- 個人情報保護対策など学校とPTAとの関係で生じる問題についての認識
秋田県教育委員会の事例
2017年(平成29年)11月に改訂された「県立学校私費会計事務処理基準」では次のように述べています。県立学校において保護者等から徴収する経費には、公費としての授業料と、それとは別に私費として扱われる経費があります。
また、私費は、学校の責任において校長名で徴収する「学校徴収金」と学校と密接に関わりのあるPTA等の団体が徴収する「団体徴収金」に分けることができます。
更に、部活動の保護者会等が全てを管理し、学校が集金等に関わらないものがあります。
そのうち、学校徴収金は、教育活動上必要で、生徒個人が受益者となるような経費であり、徴収に当たっては保護者等の負担の軽減に配慮し、その収支について十分な説明と報告を行う必要があります。
一方の団体徴収金は、学校とは別組織の任意団体が、その活動を行うために会員から徴収する経費で、団体独自に会計事務を行うのが基本ですが、PTA等の団体は、それぞれの県立学校が特色ある教育を進める上で協力をいただくなど、学校とは切り離せない関係にあることから、会計事務も慣例的に連携協力して処理してきました。
これらの会計事務については、公費と同様に厳正な会計処理が求められておりますが、その手順については、統一的な基準がなく、各校の裁量にまかせられておりました。そのため、「県立学校における団体会計の不正防止対策検討会」を設置し団体会計等に関する不祥事の再発防止の検討を重ね、改善策として、平成20年5月に本基準が取りまとめられました。
県立学校私費会計事務処理基準
(2017年11月改訂版から抜粋)- 私 費:
- 公費(県費)以外の全ての経費をいう。
- 団体徴収金:
- 私費のうち、当該学校の運営及び教育活動に密接に関係する団体の経費で、学校が徴収に関与するものをいう。
PTA会費 | PTA活動に要する経費 |
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教育振興会費 | 講演会開催や生徒の各種活動を支援する経費 |
部活動後援会費 | 部活動遠征費等を補助する経費 |
同窓会積立費 | 同窓会から委任され卒業まで積み立てている経費 |
2 総括責任者は、学校がその徴収の事務に限り処理する会計について、当該団体に決算報告書の提出を求めるとともに、その長の了承を得て、徴収に関与した立場から保護者等への説明責任を果たすものとする。
PTAの適切な運営に向けて
PTA会費の引き落としについて
個人情報を第三者に提供する場合、原則として本人の事前の同意が必要となります。
業務委託に伴う個人情報の提供の場合には、この例外になることもあります。
しかし、昨今の個人情報への意識の高まりを踏まえると、PTA会費の引き落としに伴う学校への個人情報提供に関して、保護者へ事前に承諾を得るべきと考えます。
新しく入会する方には、入会申込書において、集金業務の委託に伴い学校への情報提供を行うことを分かりやすく明記し、事前に同意を得ましょう。
また、既に加入の方からも、同意の根拠資料がなければ、同意書を得ておくべきでしょう。
PTAから学校への業務委託で個人情報の提供を行う場合、PTAが委託先である学校を監督する義務が生じる点にも注意しましょう。
書類の作成の仕方などに不安があれば、自治体の担当課や弁護士に相談する方法も考えられます。
注意すべきポイント
学校配布の文書などでの注意すべきポイントの事例です。会費の納入をもって会員の資格を得るものとする
PTA会費や後援会費の徴収は、今までの慣習でずっとこのやり方をやってきており、今の所、入会の意思確認をする予定はないなどの事例もあります。学校が会費徴収を行っている場合、学校が収集した個人情報をPTAへ提供しない限り、PTAは誰が会員の資格を得たのかわからない状況となります。
個人情報の取り扱いにおける「使用目的」のひとつが「PTA活動のため」
PTA活動は、学校が行うのではなく、PTAが行うものですので、学校が個人情報の使用目的として「PTA活動のため」とする点には疑問があります。
学校が管理監督を行った上で、個人情報を「PTA活動のため」提供する
管理監督を行った上で、PTA(第三者)に個人情報を提供する点について考えると、学校(個人情報取扱機関)、PTAは第三者(従業者および業務委託事業者)にあたるとも考えられます。PTA活動が学校主体の事業ではない点を考えると、PTA運営に必要な個人情報は、学校ではなくPTA自身が取得することが求められています。
また、自治体よる、教職員が従事するPTAの会計業務の取り扱いやその位置付けを明確にする関係規則の改定や事務要領等の整備など、規則に基づく教職員の職務環境整備も必要と考えます。