学校内で起きる事故やケガ 知っておくべきこと
学校内で起きる事故やケガ
子どもたちの学校生活、で保護者が感じる不安1つに、学校で起こる事故やケガがあります。ここでは、実際の事例や有識者による事故の検証による提言のほか、事故・ケガで必要となる費用の負担、責任の所在などについてまとめています。
事故の事例
保育園や幼稚園
小学校
事故の責任や対策は?
幼稚園同様、学校側の責任は「偶発的で予見し得ない」事故かどうかがポイントになります。学校側に安全配慮や注意義務が求めらるものとして、次ような事例があります。
- 給食における食中毒
- 運動会における高度な組体操(多段ピラミッドなど)実施時の安全配慮責任
- 引率する教員が限られる修学旅行や林間学校など、学校外行事における高度の注意義務
中学校
事故の責任や対策は?
学校側の過失の認定においては、多くの場合で実際の指導方法などが問われることになります。学校には、安全確保のため「事前の注意」「指導中の注意」「適切な事後措置」が求められています。
一方で、生徒には中学生としてのある程度高い危険回避行動が求められており、自身の行動が事故の誘因になっていないかなども検討されます。
高等学校
出典:文部科学省 事故情報の共有・注意喚起 ≫
事故から学ぶ
学校管理下における重大事故
文部科学省では、報告された調査報告書の概要を基に事故情報を蓄積し、教訓とすべき点を整理した上で学校、学校の設置者などに周知することで、類似の事故の発生を防する活動をしています。
ここでは、事故の概要と、有識者による事故の検証から提言された対策からの要約をまとめています。
学校側だけでなく、保護者の皆様にも
校外学習時の熱中症事故(小学1年生男子)
事故発生の概要
学校から約1km離れた公園に校外学習に出発(徒歩)し、到着後、遊 具等で遊んだ後学校にもどった(この間1時間 30 分)。当該児童は教室にもどった後 体調が急変し、心肺停止の状態となった。すぐに救急搬送されたが死亡が確認され た。提言された対策
- 小中学校の全教員に熱中症についての研修を義務研修として受講させる。
- 小中学生は語彙力が乏しいため、既に熱中症を起こしていても、それを表す言葉として「疲れた」の表現しか使わないこともあることを認識すべきとしている。
- 養護教諭について、複数配置の定数改善により増員すべきである。
- 学校をはじめとする公共施設に対し、暑さ指数を自動配信するシステムを構築する。
- 小中学校に対して、猛暑を考慮した年間行事計画の見直しをする。
清掃活動中の転倒事故(小学2年生男子)
事故発生の概要
当該児童は清掃活動終了近くに隣のクラスの児童を追いかけ転倒して頭部を強く打った。担任教諭が頭部を確認し、出血や大きな腫れは無かった。当該児童に対して保健室に行くよう数度うながしたが当該児童が応じなかった。
終業まで保健室に行きたがらず、担任教諭も保健室に連れていかなかった。当該児童は一人で下校した。この間、担任教諭は養護教諭や管理職に報告していなかった。
児童は帰宅後頭痛を訴え、さらに嘔吐もあったことから保護者が救急車にて病院に搬送し、外傷性硬膜外出血と診断され緊急手術を受け、1週間入院した。
提言された対策
- 頭部を打撲した場合、外傷の有無や、受傷児童・生徒本人による症状の自己申告の内容にかかわらず、学校管理職、養護教諭に連絡すべきである。
- 清掃時間中は、清掃に集中することと、廊下を走らないことへの指導を続けていくことが必要である。
体育授業中のゴールポスト転倒事故(小学4年生男子)
事故発生の概要
体育の授業(サッカー)中、キーパーをしていた児童が味方がゴールを決めたことを喜び、自陣のゴールネットのロープにぶら下がったところゴールが揺れ、児童は落下し、さらに倒れてきたポストの下敷きになった。担任と数名の児童が駆け寄りゴールポストを持ち上げ児童を移動させたが、児童は倒れたまま、唇から出血した状態であった。児童は病院に搬送され、その後、大学の高度救命救急センターへ移送されたが、死亡が確認された。
提言された対策
- スポーツ器具の取り扱いについて、学校備品として適切に管理し、サッカーゴール使用時には専用杭や砂袋等で確実に固定する必要がある。
- 体育の授業について、体育器具・用具の点検と授業者による授業前点検が必要である。
- 授業者は、事前指導や学習過程において、児童生徒に場や用具を安全に使用する態度が身につくよう指導していくべきである。
- 授業者は、常に活動全体を見渡せる位置で指導を行うよう心がけるべきである。
校地外における死亡事故(小学6年生男子)
事故発生の概要
図画工作の授業中に、児童が正門の前で学習活動をしていたところ、別の児童を迎えにきた保護者が被害児童の側に車を駐停車し、被害児童の存在を認知していたにもかかわらず、帰り際にそのことを忘れて車を発進させ、一切の非がなかった当該児童が轢かれ死亡した。事件発生後、学校及び市教育委員会の対応が被害児童の遺族に精神的苦痛を与えることとなり訴訟に至っている。
事件当時の教頭等の自家用車が事件現場付近の校地外正門付近に駐車されていたことで、保護者に駐停車してもよい場所という認識につながるなど、当該学校の交通環境に対する安全管理に問題があった。
提言された対策
- 教育委員会及び学校において、学校安全担当を創設する。
- 交通環境の再確認と日常的な安全管理を実施する。
- 学校安全強化月間を設定し、全教職員をあげて校地内外の学校安全について再点検や確認を行う。
- 教室外の学習活動に関する安全管理を徹底し、情報共有を図る。
- 学校緊急支援マニュアルを作成し、被害児童生徒及びその保護者を中心にその他児童生徒等への事後対応や心理的支援の体制を整備、確認する。
プール飛び込み事故(小学6年生女子)
事故発生の概要
地区の水泳大会へ向けた課外の練習中、飛び込みに抵抗のある児童のためにフラフープを用いた練習を行うこととなった。その児童が飛び込みに躊躇し、その様子に気付いた飛び込みの上手な被害児童がやってみたいと申し出て、飛び込み台近くの水面に浮かべられたフラフープをめがけて垂直に近い角度で飛び込み、プールの底に右後頭部を強打した。
6日間の入院治療の後、約2か月後に手足のしびれなどの後遺症が現れるなど、その後も生活に支障を来している。
提言された対策
- 教職員が事故等の発生を未然に防ぎ、万が一事故が発生しても児童生徒等の安全を確保し、被害を最小限にとどめるためには、教職員一人一人に、状況に応じた的確な判断力や機敏な行動力が求められる。そのためには、教職員の危機管理に関する研修を実施するなど、対応能力を高めることが必要である
- 「首を痛めている」判断が的確にできるように、消防署等の外部機関と学校が連携し、教員への応急手当の講習を充実していく必要がある。
- 児童生徒の指導にあたっては一人一人個人差があり、その児童生徒に応じた学習の場の設定が不可欠である。また、練習前には、児童生徒へ練習の意図及び練習方法について詳しく説明を行うことも大切である。事故防止につながるだけでなく、効果的な練習にしていくためにも必要なことである。
ハンドボール部熱中症事故(中学1年生男子)
事故発生の概要
部活動中の中学校運動場において、1年生男子生徒がハンドボール部の練習中(ランニング後)に意識を失って倒れ、救急搬送される事故が発生した。翌日に当該生 徒は搬送先の病院において死亡した。当該生徒は同年4月に中学校に入学後ハンドボール部に入部し、少しずつ技術面、体力面で向上してきていた。事故当日の練習では、当該生徒は午前8時過ぎに登校し、他のハンドボール部員と一緒に練習に参加した。
その後、当該生徒は給水することなく約35分間のランニングをした後に倒れた。
提言された対策
- 指導者は、事故が起こった場合に備えて、体全体をすばやく冷却できる物を準備しておく必要がある。
- 生徒一人一人の体格・体力に応じた運動強度を設定することが必要であり、そのためには個々の体力に負荷の可能な運動強度をしっかり把握しておく必要がある。
- 部活動の指導にあたる者は、天気予報だけでなく、練習場所におけるWBGT(暑さ指数)を定期的に測定し、活動の中止や休憩、身体の冷却給水のタイミングを適切に判断する必要がある。
- 運動強度は生徒の自己管理ではなく、指導者が把握し適切に指導しなければならない。
- 指導者は、生徒の状況に応じ、長期、中期、短期の視点だけでなく、ウォーミングアップの意味、持久力養成方法等について科学的根拠に基づく練習計画を作成し、練習目的、練習効果等を生徒にも十分理解させた上で活動する必要がある。
駅伝練習中の熱中症事故(中学1年生女子)
事故発生の概要
当該女子生徒は駅伝練習時、部活動の練習課題となっていたランニング実施中に倒れ、その後意識を失い病院に救急搬送された。熱中症、心房細動、意識障害、呼吸不全と診断された。駅伝部は学内の複数の運動部より選抜された生徒によって構成されるもので、当該生徒は卓球部に所属していた。
提言された対策
- 気象条件や活動内容に応じて、WBGT測定器やAED、日蔭用テント等を準備する配慮が必要である。
- 駅伝部には異なる能力の生徒が混在していることを認識し、体力に合った練習計画の改善に努めなければならない。
- 運動中は、生徒の表情や動作等を観察し、状況の把握に努めなければならない。
- 夏季の運動による熱中症予防のための機器等の準備はもとより、暑さに不安を感じた教員がいた場合には、教員間で協議・検討する意識や協働性も必要である。
体育授業中の跳び箱からの落下事故(中学2年生男子)
事故発生の概要
保健体育科の授業中、当該生徒は開脚跳びで5段の跳び箱を跳ぼうとしたが、腰の位置が高くなり、体勢が崩れエバーマットに頭から落下し首を損傷した。意識はあったが足の 感覚が無かったため、学校は救急車を要請し病院に搬送した。
当該生徒は頸椎の脱 臼と診断され手術を受けた。
提言された対策
- 学校は跳び箱以外の種目も選択できるように、用具等の準備について配慮すべきである
- 跳び箱の指導にあたっては、高い段数の指導だけに注力することなく、跳び箱が苦手な生徒の指導にも注意を注ぐべきである。
- 跳び箱の苦手な生徒への指導については、跳べたか跳べなかったかのみに注目するのではなく、失敗の質や運動のイメージが持てているか等を見極めて適切な言葉がけや指導を行うことが大切である。
柔道部活動中における事故(中学3年生男子)
事故発生の概要
中学校での柔道部活動中に3年男子生徒が約束練習で投げ込みを行っていた時に、生徒の一人が頭痛を訴えた。しばらく休んでいた後、立ち上がり歩 き出したところでその場に倒れ、意識を失いつつあったため、病院に救急搬送された。急性硬膜下血腫と診断され緊急手術を受けた。後遺症が残った。提言された対策
- 技能や体格差・体重差に十分配慮した練習を行うべきである。
- 救急対応に関しては、意識障害の兆候が見られた場合は、直ちに救急車を要請すべきである。
- 約束練習や投げ込み練習を指導する場合には、投げられる部員の頭部が受ける衝撃を考慮すべきである。
- 練習前、練習中を問わず、体調が悪い時は躊躇せず、指導者に申し出るよう日頃から指導しておくべきである。
- 定期的に施設・設備・用具等の点検を行うなど、学校全体で安全意識を高める必要がある。
ハンマー投げ事故(高校2年生男子)
事故発生の概要
学校のナイター照明下のグラウンドにおいて、陸上部投てき練習中に、女子生徒を指導していた男子生徒が投げた女子用ハンマーが、サッカーグラウンドの南半面で練習していた男子生徒の頭部に直撃した。その場でAEDや心臓マッサージ等の処置を行い、その後救急搬送されたが死亡した。
提言された対策
- 日没以後に、照明が十分に当たらないグラウンド周辺で活動する場合に備えて、新たに照明を設置するなど、照度を確保する必要がある。
- 部活動は顧問立ち合いのもとで行われることが原則であるが、重大事故につながる恐れのあるハンマー投げの練習に顧問が立ち会っていなかった。
- ハンマー投げとサッカー練習場が近接していたが、監視役が不在だった。
- 被害生徒は照明が暗く人影を確認できなかったことで、投てき練習が終了したと感じていたと思われる。
- 陸上部員が投てき練習時に行う声掛けに、安全認識意味合いが薄れていた可能性があった。
春山安全登山講習会での雪崩事故(高校生及び教員)
事故発生の概要
高体連主催の春山安全登山講習会において、班別の登山行動中に雪崩が発生し、講習会参加者55名中、生徒7名、教員1名が亡くなり、重症4名、中等症3名、軽傷33名という事故が発生した。提言された対策
- 登山部活動等における危機管理の徹底と関係機関等との連携が推進され、総合的な安全への対応力が向上するよう顧問等の研修の充実を図り、一層の支援を行うこと。
- 高体連及び登山専門部は、参加者の能力や実態に応じて講習会や登山活動等 の目標を適切に設定し、準備、計画、運営等を的確に管理(マネジメント)するとと もに、危機管理の充実による事故防止に努めること。
- 県教育委員会は、事故に遭遇した生徒や御遺族並びに関係教職員等の心を癒し、QOL(生活の質の向上)と安心感や部活動への意欲を醸成する心のケアの充実と継続を図ること。
- 県教育委員会は、必要な施策を推進し、活動のフォローアップに努めるとともに、亡くなられた7名の生徒と1名の教員の御遺族やけがをされた方々及びそのご家族をはじめ多くの人々に向けて改善の進展状況を公表し、本検証で得られた教訓等の風化を避ける営みを継続すること。
保護者として知っておくべきこと
学校で事故が起こる原因
ここでいう「第三者の行動」とは、来校中の保護者や関係者、子どもの登下校中の事故などです。事故・ケガの費用負担は?
学校の管理下で起きた事故やケガで治療費や入院費が発生した場合は、基本的に学校側が費用を負担します。
学校側が支払う治療費や入院費などの費用は、独立行政法人日本スポーツ振興センター「災害共済給付制度」が利用されている場合が一般的です。
通学する学校が災害共済給付制度に加入している場合は、入学時に保護者が同意書を提出することで加入となります。保険料は、学校と保護者が負担する仕組みです。
学校管理下の範囲
- 学校が編成した教育課程に基づく授業を受けている場合
- 学校の教育計画に基づく課外指導を受けている場合(部活動、林閻学校など)
- 通常の経路及び方法により通学する場合の登校(登園)中、下校(降園)中
- 休憩時間中に学校にある場合(業間休み、昼休み)
- 校長の指示又は承認に基づいて学校にある場合(始業前、放課後) など
ケガを負わせてしまった場合
学校生活では、自分の子どもがほかの児童にケガを負わせてしまう可能性も十分にあります。
子どもが相手にケガを負わせてしまった場合は、「個人賠償責任保険」が利用できます。
個人賠償責任保険とは、他人の物や身体に損害を与えた場合に適用される保険です。
個人賠償責任保険は、学校内だけでなく日常生活における事故やケガにも対応しています。
単品で個人賠償責任保険に加入する場合もありますが、特約として加入するケースが一般です。
学校で起こる事故やケガのリスクや災害共済給付制度の概要を理解した上で、「個人賠償責任保険」の活用もリスク対策のひとつです。
学校の責任とは
学校や教員は、児童・生徒に対して「学生が安全で健康に学生生活を送ることができるように配慮すること」いわゆる安全配慮義務を負っています。安全配慮義務は、以下の2つの視点で判断されます。- 事故が起きることをあらかじめ予見できたかどうかの「予見可能性」
- 事故が起きることを予見できた場合に、その事故の発生を回避できたかどうかの「結果回避可能性」
学校側に安全配慮義務違反が認められるのであれば、被害者は安全配慮義務違反が原因で生じた損害について学校側に請求を行うことが可能で、治療費などの実際の損害や、慰謝料の請求を行えます。
また、学校事故では、事故の原因が他の児童・生徒にもある場合もあります。
こうした場合には、学校や教員だけでなく、加害生徒や監督義務者である加害生徒の保護者に対しても損害賠償請求を行える可能性もあります。
こうした場合には、学校や教員だけでなく、加害生徒や監督義務者である加害生徒の保護者に対しても損害賠償請求を行える可能性もあります。
学校事故で生じる法的責任
民事責任 | 加害者から被害者に対する損害賠償責任 |
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行政責任 | 国公立学校の教職員に非違行為がある場合、 その任命権者が当該教職員に行う懲戒処分 |
刑事責任 | 事故の原因となった者に対しての刑事罰 |
教員の責任とは
学校事故で教員が責任を負う可能性があるのは、学校が私立学校である場合に限られています。私立学校では民法が適用されますが、公立学校では国家賠償法が適用されます。 国公立学校の場合は、国家賠償法により、直接、教師が責任を負うことはなく、学校を設置した国や自治体が責任を負うとされています。
国家賠償法
第1条 1項
国または公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国または公共団体が、これを賠償する責に任ずる。安全配慮義務違反と不法行為責任
教員に不法行為が認められる場合、直接、教員に対し損害賠償を請求することが可能です。ここでいう「不法行為」とは、教員の故意・過失が原因となって児童・生徒に怪我をさせたことを意味します。多くの場合「過失(不注意)」があったかどうかという点です。
立証責任については、安全配慮義務違反の場合、教員側にあり「自分に故意・過失がなかったこと」を立証しなければなりません。一方、不法行為の場合には、児童・生徒やその保護者で、教員側の「故意・過失」を立証する必要があり、重い負担となります。
学校事故と一口にいっても、事故で生じる法的責任は事故の内容や状況によってさまざまです。
学校事故による被害が小さければ、学校側との話し合いで解決に至ることもありますが、被害が大きい場合などは、学校側と争わなくてはならない可能性も高くなります。
万が一事故に遭い、今後とるべき対応や、補償請求などの問題が生じた場合には、早めに弁護士への相談をお勧めします。
学校事故による被害が小さければ、学校側との話し合いで解決に至ることもありますが、被害が大きい場合などは、学校側と争わなくてはならない可能性も高くなります。
万が一事故に遭い、今後とるべき対応や、補償請求などの問題が生じた場合には、早めに弁護士への相談をお勧めします。