高校1年生対象の世界的な学力調査 PISA(OECD生徒の学習到達度調査)
PISA 学習到達度調査とは?
OECD生徒の学習到達度調査(PISA)
PISA(ピザ)とは
PISAとは、国際機関である、OECDが行う世界的な学力調査です。
Programme for International Student Assessmentの略称で、日本語の正式名は「OECD生徒の学習到達度調査」です。
PISAは、OECD(経済協力開発機構)加盟国を中心として、2000年から3年毎に実施されています。
最新の調査は、2021年の調査が延期されたため、2022年に行われた8回目の調査となります。
PISA2022では、81の国や地域、約69万人が参加となり、回を追うごとに規模が拡大しています。
調査の目的は、義務教育終了段階の15歳(日本では高校1年生)までに学んだ知識や技能を、実生活でどの程度活用できるかを測るため、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について調査を実施しています。
調査結果は国別に比較され、各国が自国の強みや弱みを知り、よりよい教育へと活用しています。
日本の学習指導要領などにもPISAの結果から得られた知見が反映されています。
2003年にはPISAショックと呼ばれた日本の順位の急落も話題となり、2000年の調査では数学的リテラシー1位、科学的リテラシー2位、読解力8位とトップクラスだったことに対し、2003年には数学的リテラシー6位、読解力14位と急落してしまいました。
これを結果を受けてそれまでの「ゆとり教育」から「脱ゆとり教育」へと方針転換が行われ、授業時間や教育内容の増加し、全国学力テストの復活にもつながりました。
一方で、日本は2000年と2003年のPISAにおいて統計的には変化がなかったにもかかわらず、順位が1位から6位に下がった点をメディアが成績の低下と報道したことを、政府が改革を行う正当化のためにこれを利用したとの見解もあります。
OECD(経済協力開発機構)とは
OECD(経済協力開発機構)は、ヨーロッパを中心に日米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関です。
OECDの目的は、先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、OECDの三大目的である、1.経済成長、2.貿易自由化、3.途上国支援に。貢献することです。
OECDは国際マクロ経済動向、貿易、開発援助といった分野に加え、最近では持続可能な開発、ガバナンスといった新たな分野についても加盟国間の分析・検討を行っています。
Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構
EU加盟国(22か国)
ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フィンランド、スウェーデン、オーストリア、デンマーク、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、アイルランド、チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロヴァキア、エストニア、スロベニア、ラトビア、リトアニアその他(16か国)
日本、イギリス、アメリカ合衆国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、ノルウェー、アイスランド、トルコ、韓国、チリ、イスラエル、コロンビア、コスタリカ
OECDの活動
OECDは、より良い暮らしのためのより良い政策の構築に取り組む国際機関です。OECDの目標は、あらゆる人々の繁栄、平等、機会、幸福を促す政策を形作ることです。60年に及ぶ経験 と知見を活用して、より良い未来の世界を実現するよう努めています。
OECDは、政府、政策当局、市民と協力して、実証に基づく国際基準を確立し、様々な社会・経済・環境問題の解決策を模索しています。
経済実績の改善、雇用創出から、充実した教育の促進、国際的脱税との闘いまで、データと分析、経験の交換、最良慣行の共有、公共政策と国際基準の設定に関する助言を行うための、独自のフォーラムと知識の中核拠点を提供しています。
より良い暮らし指標(Better Life Index)
社会の状況をよりわかりやすく提示するための取り組みであるBLIは、伝統的なGDP以上に、人々が暮らしを計測、比較することを可能にするインタラクティブな指標です。
BLIは、暮らしの11の分野(住宅、所得、雇用、社会的つながり、教育、環境、市民参画、健康、主観的幸福、安全、ワークライフバランス)について、OECD加盟37カ国とブラジル、ロシア、南アフリカを加え、あわせて40カ国の指標を比較できるようになっています。
教育分野で有名な指標としては、PISA(Programme for International Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度調査があり、日本もこの調査に参加しています。
調査の意義・目的
- その国の教育制度の長所や短所を明らかにし、政策立案に資する基礎的データを提供すること
- 国レベルの教育制度における課題を経年比較
- 国・地域間の学力比較
- 国レベルの学力(+質問調査の結果)の変化の把握をすることによって、7回の調査データをもとに中長期的な変化の把握が可能に
調査対象は高校1年生
調査の対象は、義務教育終了段階の生徒と、生徒の所属する学校(校長)です。
日本では、全国の高等学校、中等教育学校後期課程、高等専門学校の1年生のうち、国際的な規定に基づき抽出された183校(学科)、約6,000人が参加して、2022年6月〜8月に実施されました。
今回の調査での所要時間は、生徒対象の調査が約3時間50分、学校質問調査が約60分とされています。
調査概要
テスト形式3分野とアンケート
テスト形式の調査は3種類
読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について毎回調査を行い、中心分野として、各回で3分野のうちの1分野を順番に重点的に調査しています。2022年調査の中心分野は、数学的リテラシーでした。
質問調査は2種類
調査結果を生徒や学校が持つ様々な特性との関連によって分析するため、テストを受けた生徒を対象にした「生徒質問調査」と「ICT活用調査」があります。- 生徒質問調査:徒の家庭環境や学習条件等を調査し,学習到達度との関連性を分析するために実施
- ICT 活用調査:生徒に、携帯電話,デスクトップ・タブレット型コンピュータ、スマートフォン、ゲーム機など、様々なデジタル機器の利用状況について尋ねた調査
調査の問題は非公開
同じ調査問題を長期間使用することで得点の経年変化を見るため、問題は非公開で、中心分野の一部のみが公開されています。調査の結果は、国単位での教育の質改善として統計処理され、個人の結果が単独で扱われることはありません。
調査方法
コンピュータで回答
コンピュータ型調査(CBT)
調査方法は、2015年調査から、紙とペンを使う筆記型調査(PBA)から、コンピュータ上で出題と回答を行うCBTに変更にされています。
CBTでは、生徒は実社会同様に、キーボード入力で文章を書くことはもちろん、複数の画面(Webのリンク先)を切り替えながら情報を処理したり、スクロールや基本的なドラッグ&ドロップなどの操作も行います。
多段階適応型テスト(MSAT)
PISAの歴史
2000年
初めての調査実施、32か国約26万5千人のが参加2003年
主要3分野に加えて問題解決能力についての調査実施問題解決能力とは、問題解決の道筋が瞬時には明白でなく、応用可能と思われるリテラシー領域あるいはカリキュラム領域が数学、科学、または読解のうちの単一の領域だけには存在していない、現実の領域横断的な状況に直面した場合に、認知プロセスを用いて、問題に対処し、解決することができる能力と定義されています。
2009年
デジタル読解力の調査の実施- 情報へのアクセス・取り出し:複数のナビゲーションツールを使用し、特定のウェブページにたどり着き、特定の情報を見つけ出す
- 統合・解釈:リンクの選択・テキスト収集・それぞれのテキストの重要な側面を読み手自身が構築する
- 熟考・評価:情報の出所や信頼性、正確さを吟味・判断する
調査の内容
PISA調査の3つの分野
読解力の定義
自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発展させ、社会に参加するために、テキストを理解し、利用し、評価し、熟考し、これに取り組むこと。読解力として測定する能力
- 情報を探し出す
- 理解する
- 評価し、熟考する
数的リテラシーの定義
様々な文脈の中で数学的に定式化し、数学を活用し、解釈する個人の能力。それには、数学的に推論することや、数学的な概念・手順・事実・ツールを使って事象を記述し、説明し、予測することを含む。
この能力は,個人が現実世界において数学が果たす役割を認識したり、建設的で積極的、思慮深い市民に求められる、十分な根拠に基づく判断や意思決定をしたりする助けとなるもの。
数学的リテラシーとしての能力
- 数学的に推論
- 数学的な概念、手順、事実、ツールを使って、事象を記述する
- 説明する
- 予測する
科学的リテラシーの定義
思慮深い市民として、科学的な考えを持ち、科学に関連する諸問題に関与する能力。なお、科学的リテラシーを身に付けた人は、科学やテクノロジーに関する筋の通った議論に自ら進んで携わり、それには科学的能力(コンピテンシー)を必要とする。
科学的能力(コンピテンシー)として測定する能力
- 現象を科学的に説明する
- 科学的探究を評価して計画する
- データと証拠を科学的に解釈する
調査の特徴
PISAでは、学校で習得する基本的な知識に加えて、それらを自分たちの生活に活かすことができるような発展的な内容も出題されます。
能思考力や応用力が問われる自由記述問題が比較的多く出題されることが特徴的で、普段の学力試験や学習ドリルの問題形式とは異なるように感じる生徒も多いと言われています。
3分野以外のオプションの調査も含めると、PISAで測られているのは教科の内容の習得だけではなく、多能分野にかかる「21世紀の世界とよりよくかかわり、人生を切り拓くために必須の力」をリテラシーとして定義して、評価しています。
これは、受験やテストだけが目標ではない、日本のキャリア教育でも重要視されている「生涯学び続ける力、生きる力」を測定する調査とも言えます。
3分野以外の調査
読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野以外にも下記の調査が行われています。革新分野
PISAでは、3分野の他、今後必要になるであろう能力を測る「革新分野」も出題されています。日本は、2018年と2022年の革新分野に参加していません。
- 2012年
- 問題解決能力(CBT)
- 2015年
- 協同問題解決能力
- 2018年
- グローバル・コンピテンシー
- 2022年
- クリエイティブ・シンキング
- 2025年
- テーマとして「Learning in the Digital World」が予告されています。
国際オプション
参加は各国の任意となる国際オプションでは、2009/2012年に、デジタル読解力、2012年以降はファイナンシャルリテラシーなど、その時代に必要とされる力を、教育内容に反映する毎回アップデートがされています。日本は2012年以降の、ファイナンシャルリテラシーに参加していません。
グローバル・コンピテンス
グローバル・コンピテンス(Global Conpetence)とは、国際的な場で必要となる能力・力量という意味の言葉で、文科省によると、世界で生き残るためのGCとして、以下4つの項目が必要だとされています。- グローバルコミュニケーション力
- 文化横断的・相互的なものの考え方
- グローバルな思考、多様性の尊重、シチズンシップ
- 地域的課題とグローバルな課題との関係判断
PISAでは、GCを以下の4つを含む力と定義しています。
- 地域、グローバルそして異文化の問題を考察すること
- 他者の視点と世界観を理解し、その価値を認めること
- 異文化の人々とオープンに適切かつ実効性のある意思の疎通を行うこと
- 生徒の「well-being(健やかさ・幸福度)」と持続可能な発展のために行動を起こすこと
PISA2018では、国際的な課題への理解や文化的への価値観や態度を評価するGC調査を実施しています。GC調査にあたっては、国際紛争や移民問題など課題の絶えない世界情勢の中、ハードルもあるようです。
PISA2018のGC調査では、「価値観」の側面は見送られ、「知識」「認知スキル」「社会スキルと態度」の3側面からの測定がされましたが、国際順位は出さないことになりました。
文部科学省は「多様な価値観や文化的背景を一つの指標で順位付けされる懸念がある」という理由で、調査参加を見送っています。
PISAで測ろうとしている学力
義務教育修了段階の15歳の生徒が、それまで身に付けてきた知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかです。- 「リテラシー」という用語を用いて、測りたい学力を定義
- 「思考する必然性のある場面で、生徒が発揮する力」を測定したい
→そのため、現実の生活や仕事の場面に近い状況設定の中に、問題を埋め込む。 - 将来積極的、効果的に社会に参加していくために必要となる知識・技能
→報告書のタイトル「生きるための知識と技能] - 知識の再生は不要
→解答のために必要な情報は課題文の中にある。数学で用いる公式集も提供。電卓も使用可
具体的な問題例
各設問には難易度が付与されており、最も難しい問題がレベル6、最も易しい問題がレベル1となっています。
問題例と解説(抜粋)
レベル3:太陽系(正答率67.5%)
モデル図や表に示された数値を解釈し、目的に応じて適切に用いる力を問う問題レベル6:得点(正答率26.6%)
統計的な概念を理解し、身の回りにある事象を適切に推論し判断する力を問う問題レベル6:森林面積(正答率33.5%)
複数のデータセットを処理し、その結果を解釈する力を問う問題レベル6:森林面積(正答率18.3%)
統計的な情報を理解し、事象を批判的に捉え考察する力を問う問題PISA以外の国際調査
国際数学・理科教育動向調査
国際的規模の学力調査には、PISAのほかにTIMSSがあります。
TIMSS(ティムズ)は、「Third International Mathematics and Science」 の略称で、国際数学・理科教育動向調査と呼ばれています。
TIMSSは、国際教育到達度評価学会(IEA)が、児童生徒の算数・数学、理科の教育到達度を国際的な尺度によって測定し、児童生徒の教育上の諸要因との関係を明らかにするために実施されています。
TIMSSの歴史は長く、1964年から調査が開始され、1995年以降は4年ごとに実施されています。
2019年の調査には、小学校は58か国・地域、中学校は39か国・地域が参加し、日本では、IEAの設定した基準に従い、小学校4年生約4,200人(147校)、中学校2年生約4,400人(142校)しました。
調査は、算数・数学、理科の試験に加えて、児童・生徒質問紙、教師質問紙、学校質問紙といったアンケート調査も実施されています。
IEAは、本部をオランダのアムステルダムに置く、非営利の国際学術研究団体です。
PISA
義務教育終了段階(高校1年)について、もっている知識や技能を実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを評価するもので、思考のプロセスや概念の理解や様々な場面で生かす力を評価します。TIMSS
初等中等教育段階(小学4年と中学2年)における算数・数学および理科の教育到達度(educational achievement)を国際的な尺度によって測定します。国際成人力調査(PIAAC)
PIAAC(ピアック)とは、「Programmefor the International Assessment of Adult Competences」の略称で、国際成人力調査と呼ばれる、OECDが中心となって実施する国際比較調査の一つです。
この調査は、参加する各国の成人(この調査では16~65歳)が持っている「成人力」について調査し、その力と社会的・経済的成果との関係などを分析します。
第1回調査は2011年に実施され、第2回調査は2022年から2023年に実施されています。
成人力とは
知識をどの程度持っているかではなく、課題を見つけて考える力や、知識・情報を活用して課題を解決する力など、実社会で生きていく上での総合的な力のことを「成人力」と位置付けています調査の内容
日常生活での様々な場面で、文章や図などの形で提供された情報を理解し、課題の解決に活用する力を調べます。具体的には、「読解力」「数的思考力」「状況の変化に応じた問題解決能力」の三つの分野についての調査を行います。また、対象者自身のことについて尋ねる「背景調査」も併せて行います。