行政による教育費の支援制度

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行政による教育費の支援制度 国や地方自治体による取り組み 2023

行政による教育費の支援制度

全国PTA連絡協議会
多子世帯の大学授業料無償化、児童手当の拡充、児童扶養手当の要件緩和などが、2023年12月の「こども未来戦略」に盛り込まれました。東京都や大阪府では、私立高校授業料の実質無償化に向けた準備も進められています。子ども・子育て分野への資源投入のあり方を考えることは、私たちや未来を担う子ども達とって重要なことです。

こども未来戦略方針

こども未来戦略方針とは

政府が2023年6月に、少子化対策強化の一環として児童手当や育児休業給付拡充など「こども未来戦略方針」を決定しています。
方針のポイントは、今後3年かけて年間3兆円台半ばの予算を確保し、経済成長と少子化対策を車の両輪に「若者・子育て世代の所得を伸ばす」ことで、集中的に取り組むこととしています。

こども未来戦略方針の背景

方針決定の背景には、日本が直面している少子化問題があります。
2022年に生まれた子どもの数は77万74人で、統計を開始の1899年以来、最低を記録しました。
また、2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数)も、1.26と過去最低となりました。

現在の日本の総人口は約1億2500万人ですが、このまま少子化が進むと2050年代に1億人、2060年代に9,000万人を割り込み、2070年には8,700万人程度となると推計されています。

50年後には人口が2/3になるとも予測される急速な少子化・人口減少に歯止めをかけなければ、日本の経済や社会システムを維持することは困難となり、国際社会における日本の地位にも大きな影響があると考えられます。

政府は、若年人口が急激に減少する2030年代までを、こうした状況を反転させられるかどうかの重要な分岐点を迎えているとし、「我が国のもてる力を総動員し、少子化対策と経済成長実現に不退転の決意で取り組まなければならない」との見解を示しています。

こども未来戦略における施策

2024年度以降の施策

政府は2023年12月22日の閣議で「次元の異なる少子化対策」の実現に向け、政府は児童手当の拡充や多子世帯の大学授業料の実質無償化などを盛り込んだ「こども未来戦略」を決めました。

安定財源の内訳は、公的医療保険に上乗せして徴収する支援金制度が約1兆円、社会保障の歳出抑制で約1.1兆円、予算の組み替えで約1.5兆円としています。

参照:内閣官房 こども未来戦略会議(第9回)こども未来戦略における主な施策等について(2023年12月22日)
こども未来戦略MAP(子ども家庭庁)
こども未来戦略MAP
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こども未来戦略MAP

多子世帯の大学授業料無償化

2025年度から3人以上の子どもを扶養している多子世帯を対象に、大学授業料や入学金がなどが減免され、実質的に無償化されます。具体的には、
  • 2024年度は、世帯年収およそ600万円までと所得制限がありますが、3人以上の子どもを扶養する多子世帯や、理工系・農学系の学生などにも拡充されます。
  • 2025年度からは多子世帯を対象として、所得による制限撤廃されます。大学授業料の減免として、全国平均などを目安に国公立で54万円、私立で70万円を上限に支援されます。
    また、入学金についても、全国平均などを目安に国公立で28万円、私立で26万円を上限に補助されます。

対象外となる場合

  • 子どもの就職などで、扶養する子どもが3人未満となった場合
  • 留年した場合は、授業料の支援は打ち切り
少子化対策としての課題 本制度が、少子化対策のためなのであれば、2025年以降に子どもを出産した世帯だけに、大学無償化を限るべきと考えます。また、今から出産し、大学入学となる19年後にも、本制度が継続しているという保証がない点にも懸念があります。
大学の費用が無償化になれば、大学進学を考える子ども増え、教育機会の格差解消としては大いに歓迎すべきことですが、少子化対策としては、対象範囲に疑問が残ります。
既に少子化の影響が大きい大学業界としては、歓迎される施策とも考えられます。
文科省の推計では2022年に63万人だった大学入学者数は、2040年以降は49万〜51万人に減るとされ、総入学定員が現状のままなら8割しか埋まらなくなります。2023年春の入学者が定員割れした私大は初めて5割を超えています。
教育機会の格差解消としての課題

OECD諸国などの公財政教育支出対GDP比の国際調査では、2019年時点で、OECD平均は4.9%、日本は4.0%です。国から教育機関への支出の対GDP比は、各国の予算決定において、教育がどの程度の重要度を持っているかを測る重要な尺度です。

日本では、医療や教育は自己負担であるという考えもあり、所得による応分負担が正しいのでは、という声もあります。

一方で、教育は本人のためだけでなく国のためでもあるという考えもあります。
高齢関係社会支出との比較など、日本における子ども・子育て分野への資源投入のあり方を考えることは、私たちや未来を担う子ども達とってとても重要なことです。

高等教育の公的負担の制度を進めるのであれば、教育の公共的意義を説得していくことで社会の理解を得ること、教育機関による教育が役に立ったと実感できるサービスを学生に提供していくことなどが必要です。


日本経済新聞の記事によると、文部科学省の2021年度調査では、子どもが3人の世帯の大学進学希望率は71%。2人の世帯よりも9ポイント近く低く、4人以上では62%とさらに顕著になっています。

児童手当の拡充

児童手当

2024年12月の支給分から児童手当の所得制限が撤廃され、対象年齢も中学生までから高校生の年代までに拡大されます。
また、第3子以降は月額3万円に増やし、第1子が22歳に達する年度まで増額を継続するとしています。

支給にあたっては、所得制限は撤廃され、2024年10月から、今は中学生までとなっている支給対象を18歳まで拡大されます。具体的な金額は、

  • 0歳〜3歳未満:1人あたり月額1万5000円
  • 3歳〜18歳の年度末:1人あたり月額1万円
  • 3人以上の子どもを扶養する世帯:第3子以降は3万円に増額し、第1子が22歳に達する年度末まで継続

扶養控除の見直しの検討

児童手当拡充に伴い、高校生などの扶養控除の見直しなども検討されています。
  • 所得税の課税対象額からの控除額を年間38万円から25万円に縮小
  • 住民税の控除額を年間33万円から12万円に縮小

児童扶養手当の要件緩和

2025年1月の支給分からひとり親世帯を対象にした児童扶養手当について、満額を受け取れる年収の上限など所得に関する要件緩和されます。具体的には、
  • 満額を受け取れる年収の上限が、160万円未満から190万円未満に引き上げられます。
  • 所得に応じて減額しての支給が取れる年収の上限が、365万円未満から385万円未満に引き上げられます。

地方自治体の施策

私立高校授業料の実質無償化(東京都)

東京都庁

東京都は2023年12月5日、都内在住のすべての世帯に対して、私立高校の授業料を2024年度以降、実質無償化する方針であることを発表しました。

東京都の私立高授業料の無償化は、所得による制限があり、2017年度の無償化制度導入当初は年収760万円未満の世帯、2020年度からは年収910万円未満の世帯が対象となっています。

具体的には、都立高は、国の支援で無償化されているほか、私立高については、都が、国の支援に上乗せして都内高校の平均授業料にあたる約47.5万円を上限に助成するなどの支援を行っています。

都立高(247校)の生徒約13万人のうち、現行の授業料助成の対象は約10万人、私立高(244校)には約18万人が通い、約6万7000人が助成を受けています。

高校の年間授業料は都立高校が約12万円、私立高校は平均48.3万円程度とされ、私立高校の授業料は5年前と比べ6%ほど増えています。

同じ教室で学ぶ生徒に助成の差 都内在住の生徒・保護者は無償化の恩恵を受けますが、都外在住に場合では制度の対象外となります。同じ教室で学ぶ生徒への助成の差がある状況となります。
こうした状況を踏まえ、東京都では、12月8日、盛山正仁文部科学相、加藤鮎子少子化相に、国に高校授業料の無償化実現を求める小池知事名の要望書を提出しました。

私立高校授業料の実質無償化(大阪府)

大阪府庁

高校の授業料の支援については、大阪府が来年度から910万円未満の世帯年収を目安とする所得制限を撤廃し、私立、公立ともに2024年度から対象となる学年を広げていくなどして、段階的に無償化する制度の案を明らかにしています。

府の無償化制度は、府内に在住する生徒1人当たり年間63万円を公費で補助し、超過分を学校側が負担する制度です。制度の対象となった高校に通う大阪府内の生徒は世帯所得に関係なく、2024年度から一部の学年で、26年度には全ての学年で授業料が無償となります。

大阪府は2023年12月1日時点での中間報告として、来年度の制度導入時には、大阪府内の全日制私立高95校のうち94校が参加する他、同府内の通信制高校や専修学校など計37校が参加するとしています。

大阪府内在住の全日制私立高に通う生徒約8万9300人のうち、1割ほどが近隣の1府4県(京都、兵庫、滋賀、奈良、和歌山)に通学しているため、府は和歌山以外の京都、兵庫、奈良、滋賀の1府3県の私立学校の意向も調査しており、和歌山県の私立高や専修学校など計12校が参加する意向を大阪府に伝えたと明らかにしました。

参照:日本経済新聞 大阪府の高校授業料完全無償化、和歌山の12校が参加意向(2023年12月4日)
超過分は学校負担、家庭負担?

大阪府の制度は、公費の補助対象となる授業料に上限があり、超過分は学校側が負担する仕組みとなっています。文部科学省によると他の自治体では、超過分を家庭が負担するのが一般的で、学校に負担を求めるのは大阪府だけとしています。

超過分を学校負担とすると、授業料を上限額以下に無理に抑えようとする学校経営などの懸念もありますが、一方で、負担を家庭に回せば「無償化が形骸化する」との大阪府としての考え方もあります。

参照:日本経済新聞 大阪府の授業料全面無償化、実は私立高も反発 負担増で(2023年7月6日)

私立中学校の授業料助成(東京都)

2023年9月より、都内在住で私立中学校等に在学する生徒の保護者等のうち、910万円未満の世帯年収を目安とする所得制限内の家庭を対象に、年額で10万円まで助成制度の受付が始まりました。

私立高校の授業料については、同所得制限内の家庭を対象に、都の助成と国の就学支援金と合わせて授業料が実質無償化されているため、本制度は、助成の対象を私立中や私立の特別支援学校などに拡大した形です。

  • 私立中学校、私立特別支援学校(中学部)、私立義務教育学校(後期課程)、私立中等教育学校(前期課程)の他、都外の私立中学校等に通っている方も対象となります。
2024年1月6日の朝日新聞デジタルでは、次のような報道がありました。
東京都は私立中学校の授業料を年間10万円助成する支援制度について、「世帯年収910万円未満」とする現行の所得制限を撤廃する方針を明らかにし、2024年度予算案に約81億円を盛り込む。
都によると、2023年度の助成対象は約3万6千人で、所得制限撤廃により対象者は約7万1千人に増える。

高校授業料の上乗せ助成

都道府県

国の制度 高等学校等就学支援金(2020年4月以降)

高校の授業料軽減を図るための国の支援策で、全国の約8割の生徒が利用しています。
年収目安590万円未満世帯への授業料の助成
  • 公立高校:年額11万8800円
  • 全日制私立高校:年額39万6000円
  • 授業料が年額39万6000円超の私立に通う場合は、差額の負担あり
年収目安910万円未満世帯への授業料の助成
  • 公立でも私立でも年額11万8800円までの授業料が支給

都道府県による上乗せ助成

東京都の場合、私立高等学校等授業料軽減助成金制度により、年収目安910万円未満の世帯に対し、在学校の授業料を上限として、国の高等学校等就学支援金と合わせて、最大46万9000円(都内私立高校平均授業料相当)まで助成する制度があります。
2024年度以降は、所得制限がなくなります。

都道府県による上乗せ助成は、北海道、栃木県、群馬県、千葉県、埼玉県、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県、高知県、長崎県などでも、同様の制度があります。

千葉、栃木、群馬の3県は、県内在住だけでなく県内の私立高校に通う県外の生徒も対象となっています。
自治体により内容が異なりますので、詳細条件などは、各自治体のWebサイトなどでご確認ください。

助成制度の活用 高校入学時配布される就学支援金の申請書類を受け取り、判断に悩む場合は、年収基準などで自己判断せず、必要書類を用意して申請するのも一つの方法です。

基準に合致している場合は、返済不要の助成勤が受けられます。

助成制度の活用できる場合でも、私立の場合は、制服代、教材費、修学旅行費など、授業料以外の費用も公立より高くなる場合が、一般的です。
公立も含め、実質無償化となるのは授業料だけです。

子どもの教育費

保護者と地域
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