闇バイト 加害者と被害者

勇気を持って犯罪から抜け出した子どもたち
検挙された子どもたちは、その後の取調べにおいて、「家族や警察に相談すればよかった」と供述しています。
「怪しいバイトに応募してしまった」など、少しでも不安に感じることがあれば、警察に相談することで犯罪への加担を未然に防ぐことができます。
また、仮に、既に犯罪に加担してしまった場合でも、更なる重大な犯罪を行う前に勇気を持って警察に相談することが大切です。ここで立ち止まり、反省し更生することで、明るく幸せな将来をまた取り戻すことができるはずです。
1. 「闇バイト」に気付きヤングテレホン(少年相談窓口)に相談
女子大学生が犯罪実行役の募集であると気付かずに応募した後、実際に犯罪行為に加担させられそうになったためヤングテレホン(少年相談窓口)に架電し助けを求めた結果、女子大学生の居場所を特定した警察に無事に発見・保護された。2. 警察官の親身な説得により改心
財布を紛失した男子高校生が警察署を訪れたが、言動に不審な点が認められたことから問いただしたところ、「闇バイト」に応募し犯行先へ移動中であることが判明した。対応した警察官による親身な説得の結果、男子高校生は改心し、犯罪行為に加担することなく保護された。3. 母親が警察に相談し所在不明となっていた息子を発見
母親から息子が書き置きを残し所在不明になった旨の相談を受理し詳細を聴取したところ、「闇バイト」に応募していた事実が判明した。同人は、犯行グループにマイナンバーカードの写真データを送信した後、怖くなり犯罪行為への加担を拒否したが、犯行グループから執拗に脅され、自宅も知られていたことから怖くなり、犯行グループから逃げるため所在不明となっていたところ、居場所を特定した警察に無事に発見・保護された。特殊詐欺の受け子になった経緯
- 犯行グループの中核が、SNS等を利用して実行犯を募集
- X等のSNSで「高額」「即日即金」「ホワイト案件」等と投稿
- 応募した者は、シグナル等の匿名性の高いアプリに誘導され、運転免許証等の個人情報を送信させられ、脅迫される例も
- 応募して実行犯となった者の多くは、20歳代以下の若年層であり、生活苦や借金返済等を理由に、金銭目当てで応募した旨供述

- 2024年1月から10月末までに検挙した被疑者を対象とし、その供述等から集計したもの
検挙された子どもたちの声
「闇バイト」に応募する子どもたちには、大きく「最初から犯罪行為であると知りつつ加担する者」と、「犯罪行為であるとの認識が薄い(ない)まま、個人情報を盾に脅され、仕方なく加担する者」との2種類のパターンがあります。
しかし、双方に共通する事柄として「犯罪行為に加担したことを後悔している」という点を挙げることができます。
犯罪行為であると知りながら危険を犯してでも犯罪に加担する子どもたちに対しては、検挙された後に待ち受ける悲惨な現実についてしっかりと伝え、子どもたち自らの道徳心に訴えかける啓発が効果的です。一方で、犯罪行為であるとの認識が薄い(ない)子どもたちに対しては、「犯罪に加担せざるを得なくなる、簡単には抜けられなくなる仕組み」を伝えるとともに、そのような状況に陥らないための予防策・対応策について啓発することが効果的です。
どのような情報があれば犯行を思いとどまることができたか。
- 「闇バイト」が犯罪実行役の募集であることやその仕組み、流れ。
- 個人情報を握られ、自分だけでなく家族も脅迫されることで、犯行グループから抜け出せなくなってしまうこと。
- 警察に捕まるリスクや、刑の重さや罰金額。捕まれば、少年院に行かなければならないこと。
子どもたちは「闇バイト」に応募し、犯罪行為に加担したことを後悔
犯行前後の心境・同じ過ちを犯さないようにするため伝えたいこと。
- やりたくないけど後には引けない。警察に捕まったどうしよう。
- 1回だけなら大丈夫だろう。
- 犯行グループから脅されて抜け出せなかった。後悔している。
- 詐欺だと分かったが、個人情報を送り脅された後だったのでやるしかなかった。どうせ捕まるんだろうなと思っていた。
- 捕まってしまったことで家族にも迷惑をかけてしまった。
- もっと早く引き返せばよかった。
- 家族に相談すればよかった。止めてくれて(捕まえてくれて)ありがとうございます。
- 今後も犯行グループからしつこく誘われないか、家族に影響が及ばないかと思うと不安で仕方ない。
- 「受け子」などの紹介をしてくるやつは、「お前が一番かわいい後輩」「お前しかいない」「めちゃ稼げる」「本当は教えたくないけどお前だから紹介してやる」など、言葉巧みに持ち上げてくる。しかし、裏ではパシリのようにしか思われていないのが現実。
- 「闇バイト」に手を染めれば必ず捕まる。家族に相談するなどして勇気を持って断って欲しい。
「闇バイト」募集の特徴
闇バイトに応募し犯罪行為に加担するまでの基本的なパターン
- 自らSNSで「高額報酬」等を検索して応募
- 犯行グループから連絡が入り、匿名性の高いアプリ(Telegram、Signal等)をインストールさせられ、以後、これらのアプリを使ってやりとり
- 犯行グループから言葉巧みに個人情報を求められ、言われるがまま運転免許証等の身分証明書の写真をアプリで送信
- 仕事内容(犯罪行為)が明らかにされ、拒否すれば個人情報を基に脅され、犯行グループから抜け出すことができずに捕まるまで犯行に加担
検挙者などから確認できた犯罪実行者募集における特徴
応募動機等
金銭目的
- 遊興費
- 酒・タバコ代
- 借金返済
- バイク代
- 携帯代
- 生まれてくる子どものため
- 交際者と同居するための費用
- 中絶費用 など
人間関係
- 地元の先輩に誘われ、断りづらかった
- 友達に誘われ、興味本位で など
検索ワード
- 闇バイト
- 裏バイト
- UD(受け子・出し子)
- 高額報酬
- 運び
- お金貸してください など
犯行グループの手口
募集広告の内容
- 他の業務では考えられないような高額な報酬を提示
- 業務内容が不明確
- 募集内容から要求される資格や経験が不問 など
要求する身分証明書
- 学生証
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- 住民票
- キャッシュカード など
募集文言
- 高額収入
- 高額バイト
- 安全に稼げます
- 1件10万〜、2件いけたら20万
- 犯罪ではありません
- 学生可能
- 初心者大歓迎
- 国対応
- 保証金なし
- 営業で地方へ出張する仕事
- リスク無し
- 詳しくはDM
- ホワイト案件
- 高校生でもいける
- 詐欺ではありません
- 誰にでもできる簡単な仕事 など
応募者との連絡ツール(募集時)
SNS
- iMessage など
コミュニティサイトや掲示板
- 爆サイ
- ジモティー など
その他
- 歓楽街の電柱に貼られたQRコード
- 自宅ポストに投函された求人チラシ
- 求人情報サイト、求人情報冊子 など
応募者との連絡ツール(応募後)
- Telegram
- Signal
- DingTalk など

子どもに対する指導のポイント
- 応募しない … 検挙された後に待ち受ける悲惨な現実に ついて具体的に指導
- 途中で踏みとどまる … 特徴、傾向を知ることが見破るポイント。特に個人情報を渡すまでが重要
- 相談する … 気付いた時点で警察(少年相談窓口や少年サポートセンター等)に相談
被害者の手記など
ここでは、特殊詐欺の被害に遭われた方々の手記等を紹介します。犯罪によって被害者やその家族は悲惨な現実に直面することとなります。子どもに対する広報啓発に当たっては、自分が犯罪に加担することで被害者を含む多くの人に身体的・精神的な傷を与え、経済的にも追い詰めることになることを丁寧に説き、「犯罪は他人の人生を台無しにする」ことについて気付きを与えることが重要です。
息子を騙るオレオレ詐欺により老後の生活資金等を騙し取られた
オレオレ詐欺の被害に遭ったのは、昨年の5月、がんを患い入院していた妻が手術を受ける前日のことでした。
私が、妻の手術成功を願い、神社でお参りをし帰宅したところ、自宅の電話が鳴りました。普段であれば、留守番電話に設定しており、すぐに電話に出ないようにしていました。けれども、妻の手術に備えて、離れて暮らす長男が自宅に来る予定もあったので、私は、電話の相手は長男だと思い込んで電話に出てしまったのです。
私は、自分の息子がトラブルに巻き込まれているのであれば何とかして助けなければという一心で、お金をかき集めました。そのお金は、これまでの人生で、ぜいたくをせず、妻とコツコツと貯めたお金で、将来、私と妻の老後の生活のため、そして、息子や孫達のために使うつもりだった大切なお金でした。
犯人から再度電話があったとき、声が息子と違うような気がしました。けれども、本当に息子だったら大変なことになると思い、親心と焦る気持ちから3,000万円という大金を渡してしまいました。
今思えば、お金を渡す前に、息子に電話して確認すれば良かったのですが、妻の病気、手術と、大変なことが重なり、そこまで思いが至りませんでした。
翌日に手術を控えていた妻には、被害に遭った当初、お金をだまし取られたことを話せませんでした。心配を掛けたくなかったからです。それでも、退院後、被害を妻に打ち明けました。妻は、私を責めることなく、優しく慰めてくれました。そんな優しい妻は、被害から2か月も経たずに、昨年7月、他界しました。息子達は、私の傷口に触れないよう、今回の被害を話題にすることはありません。それが一層心苦しいです。
大切な人を思う気持ちを逆手に取り踏みにじる、特殊詐欺という犯罪を許すことはできません。
息子を騙るオレオレ詐欺により二度の被害に遭遇
私は、オレオレ詐欺の被害に二度も遭いました。二度とも、息子を思う親心につけこむ卑劣な手口でした。
一度目の被害は、6年前、息子を名乗る者から電話で、トラブルの解決に必要と言われて200万円を振り込んでだまし取られました。二度目の被害は昨年の11月のことでした。またも息子を名乗る男からの電話で、現金を用意できないかと言われました。
私は、親として、息子を助けることは当然のことと思い、複数の金融機関を回ってお金を下ろし、250万円を準備しました。そのお金とキャッシュカードなどを、家に取りに来た男に手渡しました。
私は、お金を渡したことで息子が助かったとすっかり安心しました。ところが、金融機関からの連絡で詐欺の被害に気付いたのです。今思い返すと、確かに不審な点はあったかもしれません。ですが、その時は、息子を助けたい一心だったのです。
お金だけでなく、手渡したキャッシュカードも使われて、3つの銀行口座から1,200万円、根こそぎ引き出されました。会社名義の口座から引き出された被害については、今後、私が補填していくことになり、被害直後の12月はまさに茫然自失で、気が付いたら年が明けていました。私が受けた精神的ダメージは、そのくらい大きいものでした。
今後、このような被害に遭わないように、固定電話を使用しないこと、お金の管理は家族にしてもらうことにしました。会社名義のお金も返さなくてはならないので、生活も切り詰めなければなりません。
特殊詐欺という犯罪は、私のような被害者に借金を背負わせたり、生活を一変させたりしてしまう、卑劣極まりないものです。犯人には、お金はもちろん、私の平穏な生活を返してほしいと強く思っています。
被害に遭った結果思い悩み死を選ぶ悲惨な現実
NPO法人「自殺防止ネットワーク風(かぜ)」代表で、自殺に関する相談を30年以上受けている篠原鋭一氏は、「特殊詐欺に関する相談の多くは、被害者であるにもかかわらず、財産をだまし取られたことを家族等から責められ、時には無視や差別されるなど、周囲から孤立した結果、死を選ぶという悲惨なものである。
被害者が自殺した後、遺族が責任を感じ、後追い自殺した例もある。特殊詐欺の被害に遭ったことにより、二次、三次被害として被害者や遺族を死に追いやっていることから、いわば間接的殺人とも言える。
被害者は高齢者が多く、家族の役に立ちたい、我が子、孫を救いたいとの優しい思いから被害に遭っている。自責の念に苦しむ被害者に、悪いのはあなたではなく犯人であるということを、家族も周りの人々も受入れ、社会全体が連帯責任と受け止めて被害者を支える体制をつくることが大切だ。」と言う。
仮装身分捜査とは
警察官が「闇バイト」に潜入、容疑者を逮捕 仮装身分捜査で初
警視庁は、2025年6月9日、警察官が「仮装身分捜査」により、SNSを通じて犯罪の実行役を闇バイトとして募集しているトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)と接触し、うち実行役とみられる容疑者を同年5月に詐欺未遂容疑で逮捕したと発表しました。
仮装身分捜査とは
仮装身分捜査とは、捜査員が仮装の身分を使用して捜査対象者と接触するなどして、情報・証拠の収集を行う捜査手法のことです。「捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、相手方に犯罪を実行するように働き掛ける」ことがないため、おとり捜査とは区別されています。犯罪内容により、「仮装身分捜査」に「おとり捜査」が伴うという事態は、十分に考えられます。- 機会提供型:捜査機関やその協力者による働き掛け行為の時点までに、対象者が、過去に同種同態様の犯行を反復継続している等、機会があれば犯行に出る見込みがあった場合
- 犯意誘発型:そのような事情がなかった場合
警視庁は、前記の事件や捜査の詳細を明らかにしていませんが、捜査員が架空の身分証を提示して応募して投稿者側と接触することは、「捜査機関…が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働き掛け…る」ことに当たりますから、その相手方が詐欺の実行に出ようとしたところで現行犯逮捕等により検挙したのであれば、機会提供型の「おとり捜査」が伴っていることになります。
これに対し、実行犯として逮捕された容疑者が、仮装身分捜査の対象である「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」のメンバーではなく、闇バイトに応募した者である場合には、捜査機関が犯罪を実行するように働き掛けた対象者を逮捕しているわけではありませんから、おとり捜査には当たりません。
警視庁は、仮装身分捜査導入にyり「警察側から犯行グループに接触することが可能になり、被害に遭いそうになっていた被害者や、犯行の具体的な方法を事前に察知できた。被害の未然防止と容疑者検挙の両面で意義があった」としています。
仮装身分捜査の導入は、応募者に捜査員が紛れ込みかねないことが、闇バイト犯罪の実行犯らに対する心理的な圧力となり、犯罪抑止策として有効だと考えられます。
一方で、この捜査手法には、劇薬でもあるとの声もあります。身分証の信用低下を招くだけでなく、適用対象が広がれば、社会に疑心暗鬼を招きかねないリスクがあります。特に公安捜査などに使われた場合、集会や結社の自由を定める憲法に抵触する恐れも指摘されています。
仮装身分捜査について、警察庁は、2025年1月に運用のガイドラインを策定し、強盗や詐欺、窃盗など闇バイトによる犯罪に限定したうえで、捜査員が「X」などの投稿から応募し、科学技術を応用して作った架空の人物の顔写真や、実際とは異なる氏名の運転免許証や学生証などを提示するとしています。
闇バイト被害に遭わないために
