明治30年にアメリカで生まれたPTA
現代のアメリカ社会における保護者と教師の団体は?
米国で生まれたPTA、現在では?
アメリカにおけるPTA
PTAの歴史的な経緯
National Congress of Mathers and Parents - Teachers Associations
全国母親会議と父母教師協会
創設から11年を経た1908年(明治41)には、教師も加盟する組織となり、全米母親会議と父母教師協会と名称変更が行われました。
全国母親協議会の活動においてバーニー夫人は、次の2点に関する母親の無知、無関心が子どもたちの発達の最大の障害となっていると指摘しています。
- 我が子の子育てという母親自身を含めた家庭環境の向上への努力
- 我が子の子育てを取り巻く社会環境の改良への行動
こうした「子どもを救う」ための母親教育を掲げた全国母親協議会の活動は母親以外にも影響を与え、地区組織や父親と教師部などを設置し協議会としての組織拡充を図り、いわゆるPTAとも呼ばれる組織である父母と教師の会に変化を遂げました。
現在の組織体制へ
National Congress of Parents and Teachers
全国父母教師会議(National PTA)
1924年(大正13)には、再度の名称変更が行われ、現在の名称となりました。
一般よく知られる「PTA」Parents and Teachers Associations とは、National Congress of Parents and Teachers のサービスマーク(登録標章)です。
全国組織が州支部と区別する場合には、National PTAが利用されています。
National Congress of Colored Parents and Teachers
全国有色人種親教師会議(NCCPT)
1926年には、分離されたコミュニティのアフリカ系アメリカ人の子どもたちを擁護するために、新しい団体として。有色人種の親と教師の全国会議が結成されました。公民権運動、学校やコミュニティの最終的な人種差別撤廃が進み、1970年6月22日、全国父母教師会議(National PTA)との統一宣言の署名が、全米50州において行われ、正式に1つの協会になっています。
全国父母教師会議 National PTA ≫(2024年7月14日)
三原看護専門学校 天野かおり アメリカ合衆国初期PTAにおける市民性の概念 ≫(2024年7月14日)
広島大学 天野かおり PTAの成立l:母親教育から親と教師の協力へ ≫(2024年7月14日)
PTA と PTO
全国父母教師会議
National PTA
National PTAの組織率
- 全米のPTA団体であるNational PTA(全国父母教師会議)の会員となっている学校単位のPTAは、約2万4,000
- 会員数は、1962年の1,120万人がピークで、1980年代初頭に500万人強に減少し、今日では約400万人
- 国立教育統計センターなどの情報では、米国の公立および私立の学校のうち、National PTAの会員は、約27%
- 全米の90%以上の学校には、何らか形での保護者と教師による団体があるとされ、残りの団体は、National PTAに所属しない形で、学校単位などで活動しています。
- 米国における世帯数は、約1億1,500万、学齢期(3〜18歳)の子どもは、約3,400万人(2012年の国勢調査)
組織の単位と活動内容
National PTA(全国父母教師会議)は、学校単位のPTA、州組織、国という階層的な構造で構成され、すべての子ども達のためという長期的かつ広範囲な目標を持ち、それぞれの構成単位にあった、以下のような活動を実施しています。- 学校単位では、教員や職員をサポート、学校環境の改善、行事などを企画し実行
- 州単位では、各学校からの質問に対するアドバイスを与えたり、学区のカリキュラム、州法改定など、州内の子ども達が対象とした活動を実行
- 国単位では、アメリカの教育政策に対するロビイングや芸術コンテストを実行
ロビイング(ロビー活動)は、国内だとそれほど認知度が高くないものの、欧米では盛んに行われています。
特定の主張を有する個人または団体が政府の政策に影響を及ぼすことを目的として行う私的な政治活動で、議会の議員、政府の構成員、公務員などが対象となります。
企業活動を例にとると、自社の商品やサービスが有利に展開できるよう政府や国際機関に対してルールを策定するよう働きかける活動を指します。
ビジネスを展開する上では、様々な法律・ルールで規制されていますが、あまりに縛られ過ぎているとビジネス自体が衰退する可能性もあるため、こうしたリスクを回避し、有利にビジネスを行えるようにするのがロビイングのひとつです。
日本では、ロビイングに対する規制もなく、その実態すらつかめていない部分もありますが、国民が持つ権利として、請願や陳情といった制度があります。
請願とは国民が国政に対して直接国会に要望を伝えられる権利で、陳情は議員を介さずに直接文書を送付できるものです。
PTAの活動成果(ロビイング活動)
ロビイング活動の成果として、過去に先鞭をつけた法案には、次のようなものがあります。- 学校給食の導入
- 予防接種の義務化
- スクールバスの安全確保
- テレビ放送内容のレーティング(年齢制限)
- 学校のバウチャー制度への反対
- 公衆衛生サービス
- 健康的な給食プログラム
- 少年司法制度
- 強制予防接種
- 銃規制などの学校安全
PTAの活動例
全国父母教師会議では、毎年、子ども達が提出する数万の候補の中からテーマを決定する大規模な芸術コンテスト(Reflections)を実施しています。
コンテストでは、テーマに基づく百万点以上の作品が出品され、各学校から選ばれた作品は、学区PTA、州PTAに進み、全米PTAで受賞した作品はワシントンDCの教育省で展示されています。
PTAの会費
各学校のPTAは毎年、メンバーの家庭からPTA会費を徴収しています。その一部を、各学校のPTAが、州PTAと全米PTAに収めることによって、学校の保険ではカバーされないイベントなどのためにPTA団体保険に加入したり、各種のトレーニングを受けたり、州や全米PTAのサポートを受けることができるシステムとなっています。
各上部団体への会費
単位PTAの会員一名あたりの、各PTA上部団体に対する年会費国:1ドル75セント
州:2~4ドル
郡:25セント
National PTA以外の保護者組織
PTO
少なく見ても、PTOはPTAの2倍以上
全米では、90%以上の学校に、何らか形で保護者と教師によるグループがありますが、National PTA(全国父母教師会議)の会員団体は27%です。
全国組織に所属しないで活動する保護者と教師によるグループは、PTO(保護者教師組織)、HSA(家庭および学校協会)、PCC(親コミュニケーション評議会)、PTG(親教師グループ)などと呼ばれています。
PTA(全国父母教師会議)団体以外の保護者グループをは、一般的には、PTO(Parent-Teacher Organization)と呼ばれ、州や国などの階層的構造ではなく、学校単位での活動を行なってます。
全国組織に所属しない保護者組織が多い理由は、PTAの掲げる方針や運営方法に賛同しない団体が多いほか、宗教学校系の学校が多い私立校は、PTAよりも母体の宗教団体のガイドラインに沿った活動を行なっているなどです。
PTOが増えた主な理由
- National PTA(全国父母教師会議)の運営方法に縛られない活動ができる
- 活動目的や方針まで全てを決められるなど、州よりフレキシブルな活動ができる
- 学校規模にあわせた学校毎にふさわしい範囲での活動ができる
- 子どもの擁護は理解できるが、政治的活動に焦点をあてることを正当化することに疑問を感じる人もいる
- 全米PTAは会費の徴収が義務付けられているが、PTOは会費徴収の有無が選択できる
- 州や国(州によってに郡もあり)の組織に会費を支払うことより、地域や学校のサポートに関心がある
- PTO Today社の推計によると、平均的な単位PTAの上部組織への負担金は、会費だけで年550ドル
PTO Today社
増加するPTO団体の活動に対応した情報提供として、1999年には、出版やサービス事業行うPTO Today社から、幼稚園から8年生の保護者を対象とした雑誌「PTO Today」が創刊され、約8万部が発行されています。
PTO Today社は、独立して活動するPTO団体を取りまとめる事業も行っており、各種の情報提供のほか、PTO Today Plusといった有償のメンバー制度もあり、メンバーには保険などNational PTAと同様のサービスも提供しています。
PTAとPTOを比べると
PTA(Parent-Teacher Association)
全国規模の団体、州や国と連携を行い、役員選出や会議のある階層的な組織運営、125年の歴史PTO(Parent-Teacher Organizatio)
出来る人が、出来る時に、出来る事を基本とするボランティア精神での運営、学校単位での活動組織National PTA(全国父母教師会議)は、長年の活動により、大多数のアメリカ人にとって、学校と保護者の団体といえば「PTA」となっています。
また、PTAは唯一の全国学校親会員組織であるため、PTAの代表者は教育討論で保護者の代表になっています。
一方で、PTOは、中央集権的な構造ではないため、正確な団体数もわかりません。
National PTAのこれまで活動は、スクールバスの安全性やいじめ対策などが必要な場合に、貴重な解決手段の一つとして大きな役割を果たしてきました。
また、ロビングなどにより、様々な法案への影響力も行使してきました。
こうした活動は、子どもたちへのよりよい教育環境につながり高く評価されるべき歴史です。
National PTAの活動は、少なくとも2000年以前には、次のよう3つのセールスポイントがありました。
- 研修会、指針やマニュアルなど、州や国レベルのPTA情報リソースに、所属するPTAだけがアクセス可能
- 全国規模の団体として、保険などの各種サービスの提供
- ロビイングによる国や州への政治的影響力
こうしたセールスポイントのうち、情報アクセス機能については、21世紀の現代においては、インターネットなど情報インフラの普及により、あまり価値ない事になりつつあります。
また、1999年に保護者と教師の団体にグループに情報リソースとサービスを提供することにフォーカスしたPTO Today社が設立されて以来、情報アクセスへの利便性向上はもちろん、全国規模のサービスも、学校単位で活動するPTOが、必要に応じて自由に利用できるようになりました。
昨今のNationl PTAの年次報告書などを見ると、すべての子どもたちの声として、政治的擁護をより一層強調する方向へ進んでいるように感じます。
具体的には、前述の影響力を行使しようとしてる法案、取締役会再編成やCEOポジション創設をはじめ、国レベルの問題に対する組織の発言権を強化する体制作りなど、階層的な構造を持つ全国組織としての優位性を維持できるような運営が伺えます。
アメリカでは、Nationl PTAに所属して活動してきたPTAが、地域や学校単位での活動に専念できるPTOに切り替える事例が増えていますが、PTAもPTOもそれぞれが学校を単位とする任意の団体であり、所属する保護者や教師は、それぞれの信念や判断に基づいて活動をしています。
団体の形式に関わらず、保護者と教師の子どもたちに対する活動は、参加者が自発的に協力し、よりよい教育環境を提供できる体制が大切です。
アメリカの保護者とPTA活動
保護者の感覚
より活動の多いPTOやPTAがある学校が保護者に好まれる
アメリカでは、教育熱心な保護者が多く、より活動の多いPTOやPTAがある学校が保護者に好まれる傾向にあると言われてます。保護者の負担になるのなど、PTA活動が敬遠される場合もある日本のPTAとは対照的な状況です。
PTO活動やらなくても誰も文句は言わない
日本人に比べ、アメリカ人はより合理性を重視するとも言われ、PTO活動をする場合にも、結果が自分にプラスにつながるかを判断します。
PTA活動においては、金銭的メリットではなく、子どもの笑顔、役員や委員として人から感謝されたり尊敬されることで得られる達成感などが、時間と労力に見合うかがをプラスマイナスの判断となります。
アメリカのPTOは、やりたい人がやるもので、時間がない、単にやりたくない保護者は別にやらなくても文句は出ないと言われてます。
出来ることがあれば、出来る範囲でボランティアを申し出
PTO活動の一つとして、サンクスギビングのイベントを例にした場合、ボランティアの方法も色々です。
- 当日のスタッフとしてのお手伝い
- 前日準備のスタッフとしてのお手伝い
- ターキーを焼いて持参
- 手作りは無理なのでケータリングをお届け
- イベント案内を制作
- スポンサーや寄付金集め
アメリカのPTA事情
PTAやPTOによる違いのほか、PTOであれば、地域や学校単位の組織であり、その活動内容は大きく異なります。ここに記載していることは、事例の一つです。
アメリカの学校は保護者なしでは成り立たたない?
授業や送迎のボランティアおPTAの重要な活動の一つです。学校主催の行事が少ないため、PTA主催の行事は、子どもたちにとって、楽しい貴重な交流の場となっています。
PTA主催のほとんどのイベントは、放課後の夕方から夜にかけて行われるのが一般的です。
クラスペアレント
日本のPTAでいうところの「役員や委員」は、アメリカでは一般に「クラスペアレント」と呼ばれ、主な役割は、年に数回程度開催する、子どもたちのための「お楽しみ会」の企画と運営です。
お楽しみ会とは、子どもたちが集まって歌を歌ったり、ゲームをしたり、お菓子を食べたりといった会もあれば、子どもたちが主体的に動き、テーマを考えてコスプレをするなどのイベントもあります。 イベント例として、ポップコーンデー、子ども持つ才能を活かしたタレントショー、仮想パーティ、他民族社会ならではのマルチカルチャーナイトなど様々です。
PTA活動における寄付
アメリカでの寄付金集めは、ファンドレイジングと呼ばれ、とてもポピュラーな活動です。PTAイベントの資金は寄付
子どもたちの学校生活で思い出に残るようなイベントはPTA主催が一般的です。PTAとして、求めらるのはイベント企画や運営だけでなく、イベントを実現させるための資金集めが重要で、寄付から成り立っています。
歩くイベントで寄付金集め
気候の良い地域では、ひたすら歩くイベント、長距離競歩であるウォーカソンが行われています。- ウォーカソン(Walkathon)は、ウォーキング(walking)と、マラソン(marathon)をあわせた造語です。
ウェブサイトを利用した寄付金集め
子どもの気持ちを巻き込む寄付金集めに賛否はありますが、PTAが登録した寄付金サイトを利用して、子どもが実行したいと考える善行(家庭でのお手伝い、社会や福祉貢献など何でもOK)の達成状況により、寄付金を集める仕組みもあります。目標 → 達成 → ご褒美的の流れは一緒ですが、「ウォーカソン」とは異なるシステマティックな仕組みです。
- 子どもが、寄付金サイトに自分が実行したいと考える善行を宣言
- 宣言した善行の内容を、友だちや家族のメールアドレスを通じて事前共有
- 宣言した善行を実行したら、サイトで報告し、報告内容は友だちや家族が共有
- 実行へのご褒美として、家族が寄付を実行
このような仕組みを採用しないPTAやPTO団体も多くありますが、中産階級が多く住むエリアの学校で、1ヶ月間での寄付が2万ドルを超えた事例もあります。
PTA活動の労働対価と寄付
CNNで報道された、ファンドレイジングを担当した保護者が、他の保護者宛てたお知らせの要約です。あくまでもユーモアとしての紹介です。
◯ $15
私は、カップケーキなど作りたくありません。カップケーキの準備に必要な費用を寄付します。◯ $100
本音は、お手伝いしなくて済んだらいいなぁと思います。$100で私の名前を忘れてください。◯ $空欄(希望の金額をどうぞ)
これを記入する手間以外、何もしないで済むことに感謝しますので、寄付をさせていただきます。各家庭や地域の事情を考えると、寄付金で解決することは、寄付金文化のあるアメリカでも賛否両論があります。
ただし、寄付制度も選択肢の一つであると考えることは、日本においても成立するのではないでしょうか?
PTA活動や協力方法の選択肢として、寄付制度を導入するには、団体として丁寧な議論と合意形成が必要です。