AIの活用、教育費の節約にはどう役に立つの?
AIの活用に対する期待と不安
教育の世界は学校も塾も最大の課題は人材や人手不足です。その打開策として注目されているのがAIの活用であります。
従来、教師や講師がやっていた作業をAIが代わりにやってくれたら、長時間労働も改善されるでしょう。
一方で、教育の現場では、AIツールの導入への反発もあります。
カンニングに使われるのではないか、レポートや論文をAIに書かせるのではないかという不安の声が上がっています。
しかし、そのような不正な利用への対策をキチンとすることを前提にAIを活用することで、教育の現場に携わる人たちの負担軽減や学習の効率化、そして、教育費用の削減に繋がることも期待できるのです。
国も推奨する教育現場でのAIの活用
日本国内でも、たとえば英語塾などでは発音のチェックをするAIが導入されています。
今後は機能も改善されていき、英語学習には欠かせないツールになっていくでしょう。
DuolingoやSpeak(スピーク)、ELSAといった英語学習のAIツールも広く使われています。
そのため、行政側もAIを教育の現場に取り入れることに前向きになり始めています。
ニューヨーク市公立学校のデビッド・バンクス理事長も当初はAIを教育の現場に取り入れることには慎重な姿勢でしたが、2023年5月には、AIツールの導入を検討していると言及し、学校でのマネージメントやコミュニケーション、指導方法の効率化に役立てたいとも述べています。このバンクス理事長の方針に、マンハッタン区長のマーク・レヴィーンが称賛しています。
日本では内閣府、文部科学省、経済産業省が連携し、教育機関でのAI教育の取り組みを検討し、2023年には文科省は教育における生成AIのガイドラインを発表しました。
今後は、全世界で学校や塾でもAIツールの活用が進んでいくと期待されます。
では、実際にAIはどのように活用が期待されているのでしょうか。また、すでにリリースされているAIツールは実際にどんなふうに使われているのでしょうか。
まずは現在の日本の受験事情を見ていきましょう。
現在の日本の受験事情
中学受験は「なぜ塾が必須」なのか?
高校受験にせよ、大学受験にせよ、「塾なしでクリアした」という話はしばしば耳にしますし、不可能ではないはずです。
しかし、中学受験では塾なしでクリアしたという話はまず聞きません。
大学受験も高校受験も学校の勉強の延長にあります。公立中学の主要5教科の定期テストでほぼ満点をとるような生徒ならばどこかの高校には合格できます。
ところが、中学受験は入試の内容が小学校の学習とはまったく違います。
公文式やそろばんとも違います。そのため、塾に入って一から勉強をするしかありません。
入塾のスタートは一般的には小学4年からが多く、塾の新学期である小学3年の2月から生徒たちは塾に通い出します。
中学受験という未知の内容を学んでいくことに小学生が挑むので、親のフォローが必要となりますが、今どきの中学受験生の家庭の大半は共働きです。母親がフルタイムで働く家庭も少なくありません。
そうなると、両親ともに時間がなく、そうそう子どもの受験の伴走はできません。
そのため、大半の塾は共働き家庭向けにサービスを手厚くしています。
中学受験の四大塾はSAPIX、日能研、四谷大塚、早稲田アカデミーです。
SAPIX以外はどこも手厚いサービスをしており、保護者の負担を減らそうとしています。
一方で、御三家などの難関校に入学させたいなら、SAPIXが有利になります。
テキストが難関校対策に最適化されているからですが、この塾は保護者の負担が大きくなります。
まず、自習室がなく、質問も授業の後にしかできません。
また、授業では導入(とっかかり)の部分しか教えないので、生徒はまだ解けない状態で帰宅をすることになり、ひとりで宿題ができないことが多々あります。
そのため、保護者が先生になって教えなければならなくなるわけですが、今どきの忙しい保護者にそれができないので、個別指導塾との併用となることもあるのです。
個別指導塾も様々ですが、指導力が高い講師の授業料は高くなり、SAPIXグループの個別指導プリバードは小学6年生の場合1時間で9350円です。
そのため、最近ではオンラインでSAPIXのテキストや予習シリーズ(四谷大塚や早稲田アカデミーが使うテキスト)やテストの解説をするサービスも人気を博しています。
高校受験は自習時間が長くなる
公立の中学生が通う高校受験対策の塾は二つのタイプがあります。
まず、内申点を高める指導をする塾です。
内申点を上げるためにもハウツーがあり、それに沿って定期テスト対策に力を入れ、公立中学での成績を上げるように指導をします。
定期テスト前には無料で講座を開くところもあります。
定期テストの点数がいいのに内申点が伸びない場合はなにか原因があるので、それに対してもフォローをしてくれます。
一方、「難関校の合格実績」をアピールする塾は、定期テスト対策はせず、内申点を上げるための手厚いフォローはしません。
なぜなら、公立高校でも難関校になるほど内申点を重視しないからです。
そういった難関高校は入試で容赦なく中学での教育の範囲を超える内容が出るので、塾でそれらの範囲も学んでいきます。
このような難関校の受験対策の問題集はほとんど市販されていないので、独学での対策はまずできません。
そこで塾に通う必要が出てくるのです。
一方で、高校受験の受験生は中学生であり、自立して勉強をするので、自習室や自宅などでの自習も増えてきますし、部活で忙しいから、塾通いも最低限にしたいと思うでしょう。
そういう理由から、動画授業やオンライン家庭教師などのサービスが拡がっており、これらのオンラインサービスは中学生以上がターゲットになっています。
高騰する受験対策の費用
ここまで見てきたように中学受験も高校受験も塾が必須になっています。
中学受験はそろそろピークアウトと言われていますが、その分、小学生のための高校受験対策コースが人気を集めています。
中学受験をしない児童は算数の「割合」や「比」といった分野が抜け落ちたり、国語の読解力が伸びなかったりして、中学以降に苦戦をすることもあるため、塾でそのあたりを補完しようというわけです。
このような集団塾はどこも一クラス40人ぐらいで授業をやっていましたが、今は少数制になってきています。
そうしないと生徒たちの集中力が保てないからです。
その少数制の究極が個別指導の塾です。現在、個別指導塾が全盛期で、どこもひとりひとりに合わせた指導をしますが、その分、集団授業より塾代は高くなります。
一方で、コロナ禍でオンライン指導も増えてきました。
通信講座は、かつては紙に印刷された課題が郵送されるスタイルでしたが、今ではオンラインが中心になりつつあります。
タブレットに表示された問題を解いたり、動画授業を見たり。通塾の時間が節約でき、費用が安くなるのが魅力です。このようにオンライン授業やデジタル教材以外にも今後普及が期待されるのがAIの学習ツールです。
AI利用の可能性
AIはどう学習を助けてくれるか
AIをどのように学習で活用していくかを具体的に見てみましょう。
すでにリリースされている「AIチューター」というツールがあります。
学習をしていて、分からない問題があって解説を読んでも理解できないことがあります。
そういう時に「AIチューター」を使ってみましょう。
まず、その問題をスマートフォンで撮影してLINEで送信します。すると解説が返ってきます。
その解説を読んでも分からない場合は、それを伝えるとさらにかみ砕いて分かりやすく教えてくれます。
その会話を通して、自分がどこを分かってないかも把握していくことができます。
紙の問題集の解説には文字制限がありますが、デジタルの場合、制限がないので、ユーザーが分かるまで細かく解説ができるわけです。
ユーザーの高校生は
実際に「AIチューター」を利用している高校2年の女性はこう話します。
「通学時間が長いので塾通いができません」
「AIチューターなら電車の中で勉強をしている時に分からない問題を質問できるので助かります」
「すぐに質問できるので勉強が途切れにくくなりました」
特に活用しているのは英語だそうです。
「語の単語の意味もたくさん示してくれるので、知識が増えていきます」
「文法についても細かく教えてくれるところがいいです」
現役の家庭教師たちは
また、現役の家庭教師たちにも「AIチューター」を使ってみてもらい、どう思うかを聞いてみました。
東大生講師によるオンライン個別指導「東大コネクト」の講師の坂本さん(東京大学法学部3年:2023年度)はこういいます。
「AIと人間がちゃんとコミュニケーションできるか疑問でしたが、AIチューターを使ってみたところ、自然な会話ができるので驚きました」
「僕は塾でも講師をしていますが、”こんな簡単なことで質問をするのは恥ずかしいな”と質問をするのを躊躇する生徒さんもいます」
「AIならばそういった抵抗感もなく質問ができるのがいいと思いました」
また、現役の家庭教師たちにも「AIチューター」を使ってみてもらい、どう思うかを聞いてみました。
同じく「東大コネクト」の児玉(東京大学医学部3年:2023年度)さんはこう話します。
「LINEを使って、直感的に操作していくので、脳が柔軟な小学生や中学生の方が使い方を早くマスターするでしょう」
「算数や数学、英語などではかなり利便性が高いでしょう」
「問題集などの解説との一番の違いは具体例を示して教えてくれる点です」
「時間の制限もないので分かるまで質問を続けることもできるのも魅力ですね」
引っ込み思案で講師に質問ができないから、家庭教師を別に雇うというケースもありますが、AIチューターを活用することで解決できる場合もありそうです。
人間しかできないことと、AIがアシストできること
オンライン自習室
「AIチューター」のサービスとして、オンライン自習室の機能があります。
LINE経由でオンラインの自習室に入り、他の利用者と一緒に勉強します。
勉強をしていることを報告する機能もあり、サボれないように自分で管理をすることができます。
「カフェで同級生と勉強をしようとしてもお喋りをしてしまうことがあります」
「そういったことがないのもいいですね」(先出・高校2年)
カフェで勉強をしようとしても、ひとりでオンライン自習室に入ればお喋りをすることもなく勉強に集中ができます。
もうひとつの人気のサービスは進路相談です。
「看護師を目指していますが、数学は苦手で、英語と生物が得意だとAIチューターに伝えると”慶應大学の看護科は英語と小論文、そして、生物・数学・化学なら一教科選択になります”と教えてくれました」(高校2年)
AIは情報を見つけてくることが得意なので、こういった進路アドバイスもできるわけです。
このようにAIは学習のツールとして普及し始めています。
一方で、”教育は人”
一方で、”教育は人”であります。
コロナ禍で学校も塾もオンライン授業をスタートさせましたが、そうはうまくいきませんでした。
教師や講師が生徒の顔を見ないと指導ができないことも多いからです。
生徒が問題を解きながら、苦戦している表情だったら、声を掛けてヒントを与えるといったことが大切だからです。
同じクラスで同じテキストで勉強しても、教える人間が変われば生徒たちのモチベーションが上がって、クラス全体の成績が上がることも多々あります。
一方で、教師や講師たちの負担を少なくするためにAIを活用していくこともできます。
個々の生徒への質問対応は教える側にとって負担が大きいものです。そういった代替ができるものをAIが請け負うことで、教師や講師の長時間労働の削減にも繋がります。
学校も塾もそこで働く人たちの「次世代を担う子どもたちの教育は社会貢献である」という熱意に依存してきました。そういった人たちのワークライフバランスを改善するために、教育の現場でAIは活用されるべきでしょう。