全国学力調査 様々な議論

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教育環境や授業の改善などにつなげるための重要なデータの一つ

全国学力調査 様々な議論

全国PTA連絡協議会

2024年度の全国学力調査

全国学力・学習状況調査(以下、全国学力調査)は小中学生約200万人が対象で、国語と算数・数学は毎年度、理科と中学英語は原則、3年に1回行われています。

全国学力調査は、メディアなどで「全国学力テスト」と呼ばれることもありますが、子どもたち一人ひとりに点数をつけ、成績に反映させるテストではなく、教育施策に生かしたり、各教育委員会・学校で自分の地域や学校の子どもたちの課題を分析し、教育環境や授業の改善などにつなげるための重要なデータの一つとされています。

全国学力調査の目的(文部科学省)

  • 義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る。
  • 学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる。
  • そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。

2024年度の全国学力調査

2024年度は、4月18日に実施されています。2024年度から、児童生徒質問調査については、全面的にオンラインによる回答方式で実施されています。

1. 教科に関する調査(国語、算数・数学)

調査対象
国・公・私立学校の小学校第6学年、中学校第3学年(原則として全児童生徒)
出題範囲
原則として調査する学年の前学年までに含まれる指導事項
出題内容
下記 、1.と2.を一体的に問う。
  1. 身に付けておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や、実生活において不可欠であり常に活用できるようになっていることが望ましい知識・技能 等
  2. 知識・技能を実生活の様々な場面に活用する力や、様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力 等

2. 生活習慣や学習環境等に関する質問調査

児童・生徒質問調査(小・中学校)
調査する学年の児童生徒を対象とした、学習意欲、学習方法、学習環境、生活の諸側面等に関する調査
学校質問調査(小・中学校)
学校を対象とした、指導方法に関する取組や人的・物的な教育条件の整備の状況等に関する調査

全国(国公私)の平均正答数・平均正答率

小学校
国語 算数
9.5/14問
(67.8%)
10.2/16問
(63.6%)
中学校
国語 数学
8.8/15問
(58.4%)
8.5/16問
(53.0%)
文部科学省・国立教育政策研究所 全国学力・学習状況調査の結果(概要)のポイント

国際調査と比べると

国際調査としては、TIMSSとPISAが有名で、TIMSSは学校で習う内容をどの程度習得しているかを見るアチーブメント・テスト、PISAは学校で習った知識技能の活用能力を見るテストと言われています。
TIMSS、PISAともは、国単位で参加する調査ですが、地域での参加も認められています。

調査名称や対象

全国学力調査
  • 小学校6年生、中学校3年生
  • 教科調査(国語、算数・数学)、質問調査
  • 悉皆調査:約186万人(調査対象の約88.9%)
  • 全国学力・学習状況調査は2007年から毎年
PISA
  • Programme for International Student Assessment、OECD生徒の学習到達度調査(国際学習到達度調査)
  • 義務教育終了段階(高校1年)
  • 読解力、数学的知識、科学的知識(メインテーマは調査毎に変更)のほか学習習慣や学習動機(モチベーション)も調査
  • 抽出調査:約6,000人(世界81の国と地域で約69万人が参加)
  • 第1回調査は2000年、以後3年毎に実施
  • 実施主体は、パリに本部を置く国際機関のOECD(経済協力開発機構)
TIMSS
  • Trends in Internaュtional Mathematics and Science Study
  • 初等中等教育段階(小学4年と中学2年)
  • 抽出調査:約8,600人(世界では、58カ国の小学校と39カ国の中学校が参加)
  • 1964年の数学調査が前身。1995年から国際教育到達度評価学会により4年毎に実施
  • 実施主体は、アムステルダムに本部を置く国際教育到達度評価学会
NAEP
  • The National Assessment of Educational Progress
  • 4th(小学4年)、8th(中学2年生)、12th(高校3年)
  • 数学、読解、科学、 ライティング、技術と工学リテラシー、芸術、公民、地理、経済、歴史
    ※対象とする学科目(1〜3教科)、分析範囲 (地区)は実施年により異なる。
  • 抽出調査:約8,600人
  • 1969年 全米学力調査の実施
    1990年 37州と3地域で州別サンプリング調査(State NAEP)を実施
    2003年 2001年のNCLB法の制定により50州全州参加でStateNAEPの実施

調査の定義など

全国学力調査
  • 義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る。
  • 学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる。
  • そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。
PISA
  • 15歳児が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかどうか
  • 思考プロセスの習得、概念の理解、及び様々な状況でそれらを生かす力
TIMSS
初等中等教育段階における算数・数学および理科の教育到達度(educational achievement)を国際的な尺度によって測定し、児童・生徒の環境条件等の諸要因との関係を参加国間におけるそれらの違いを利用して組織的に研究
NAEP
  • アメリカの子どもたちの全体としての教育達成度を測定
  • 地域や国の教育政策立案のための基礎データの収集、すでに施行された政策・施策の評価
主調査:社会的要請の高い教育課題への取り組みを課題とし、最新の教育測定技術の適用と開発
動向調査:時系列的な学力変化を調査
  • 個々の児童・生徒、その家族、及び教員に関するデータはすべて非公開、生徒個人や学校単位のデータにはアクセスできないなど、調査結果が特定個人の学力評価や教員能力の評価に直接、短絡的に用いられることを避けています。

調査の方法

PISA・TIMSSでは、それぞれテスト問題の冊子が複数あり、少ない人数で多くの問題項目の学力の実態把握が可能な「重複テスト分冊法」で、各生徒はそのうちの1種類の冊を2時間かけて解答する方式です。
NAEPも重複テスト分冊法を採用し、設問項目の1/3は公開、2/3は非公開となっています。
日本の全国学力調査は、全国共通の問題を課すことが特色であり、小学校は90分間、中学校は100分間で実施されています。2027年度以降、CBTの前年的な導入により、変わっていくものと思います。
全国学力調査とは
CBT調査
重複テスト分冊法 重複テスト分冊法は、受検者が、問題構成の異なる分冊とよばれるテスト冊子を受けるものの、その中に含まれている共通な問題項目ブロックを利用して、全ての分冊を共通の尺度上で比較可能な形式です。
すなわち、解いたテスト冊子が異なっても、互いに比較できる得点を計算可能となり、この利点を活かせば、1回の実施あたりに関する受検者の解答負担が軽減できる一方、複数の分冊を生成できるため、測定したい領域の内容を幅広くカバーすることが可能となります。
重複テスト分冊法自体の目的は、各種特性および対象とする母集団の学力分布に関する各種情報の取得にあって、必ずしも参加した児童生徒個人や所属しているクラスや学校に関する学力状況・理解状況を把握するところにあるものではないとされています。

全国学力調査を巡る様々な議論

全国学力調査の目的は、国、教育委員会、学校が学力、学習状況の実態を把握し、それに基づいて教育改善を行い、児童生徒の学習状況を改善することとされています。
調査を巡っては、調査実施に対する賛否、悉皆調査を毎年行うことの必要性、結果公表のあり方、結果の分析・活用体制の整備等、様々な議論があります。

過去にはモラルの低下

全国学力調査の経緯にもあるよう、国が主導する全国学力調査1956年から実施されており、きっかけは、経験を重視する戦後「新教育」が、読み書き・算数といった基礎的能力の低下を招いているのではないかという指摘でした。 1961年からの悉皆調査では、高度経済成長期などを背景に過度な競争が発生、成績の悪い生徒の欠席強制、カンニングの奨励、答案破棄などモラルの低下までを招く事態が発生し、1966年には全国学力調査中止に繋がっています。

調査目的と調査形式

全国学力調査は、義務教育に関する現状の把握・改善のための調査(指導に役立つテスト)とされていますが、純粋な「学力調査」の側面もあるとの指摘もあり、結果が直接的な人事評価・学校評価に使われるとの指摘もあります。
指導に役立つテストの目的であれば、悉皆調査(全数調査)は必要ですが、一方で、純粋な学力調査という目的であれば、抽出調査で目的を達成できると考えられています。

成績公表のあり方

文部科学省は、全国学力調査の結果を都道府県単位での公表し、2013年からは学校ごとの成績公表は、市区町村教育委員会に委ねるとしています。
公表の有無については、過度の競争とテストの腐敗を招くため、結果を公表すべきでないという立場と、結果を公表することで学校間競争による教育の質向上を求める立場との間での議論があります。
また、公開されたデータを基にした都道府県別の順位表などメディアなでも公表されていますが、統計学的な有意差の検証なしでの順位付の疑問も残ります。

調査内容を全公開

全国学力調査は、指導に役立つテストであり、調査の結果を指導に役立てるという目的があるため、調査内容を全公開されています。このため、来年度以降、経年比較用の問題を用いることができず、学力の経年変化を正しく測定することが不可能になっているとの観点もあります。

複数の調査目的

国際調査であるPISAやTIMSSの目的は、いずれも児童生徒の学力の実態把握です。
一方、日本の全国調査の目的は、以下の3つがあるとされ、目的が違うも調査を同一の設計(調査方式や利用方法など)で行うことは、望ましくないとの専門家の指摘もあります。
  • 児童生徒の学力状況の把握・分析
  • 児教育及び教育施策の成果と課題の検証
  • 児童生徒の学習改善・学習意欲の向上

悉皆調査の理由

国際調査は3〜4年ごとに実施される学力の実態把握を目的とした抽出調査であるが、日本の調査は、毎年行われ約186万人もが参加する悉皆調査なのかについては、自治体や学校レベルにおいて、学校評価や教員評価に学力調査の結果を活用する意図があるとの指摘もあります。
学力の実態把握が目的であれば、測るべき学カの定義を明確にし、国際調査同様、数年に1回の抽出調査とし、重複テスト分冊法などの利用も検討すべきとされています。

現場の疲弊

文部科学省の調べでは、独自の学力調査を行う教育委員会数は2018年で、全都道府県教育委員会数47、全指定都市教育委員会数20のうち、32都道府県教育委員会、17指定都市教育委員会となっています。
多くの都道府県、市町村教委における地方調査の目的は、全国調査とほぼ同じであり、全国調査と地方調査が毎年同じように繰り返し実施され、学校現場の疲弊を招いているとの指摘もあります。

独自調査の対象学年

全国学力調査は小6と中3を対象に実施されていますが、地方自治体が行う独自の学力調査では、小5と中2を対象とする調査が多くなっています。
2018年に独自調査を行った32都道府県教育委員会のうち、5年生を対象としていないのは、石川県と京都府、中2は、石川県と奈良県のみでした。
全国調査の対象とならない学年の学力測定と同時に、次年度に全国調査の対象である小5と中2に対する経験としての機会提供があるのではと推測されています。

外部テスト業者

調査の実施にあたっては、外部テスト業者に委託し、教育委員会などで一部修正しているケースも少なくないとされています。集計・分析結果の差異は、外部テスト業者の違いによるものとの指摘もあります。

個人情報と外部委託

2024年度の全国学落札調査の落札先は、小学校がZ会(増進会ホールディングス)… 約15.3億円、中学校が内田洋行 … 約16.2億円となっています。
過去の落札企業には、教育測定研究所、NTTデータ、ベネッセコーポレーション、JPメディアダイレクトなどがあります。
中でも、ベネッセコーポレーションは、2019年度は中学校、2018年度以前は10年以上継続して小学校の受託会社となっています。教育に幅広く関わる企業による受託情報の適切な管理はもちろんですが、2015年の最大3500万件超もいわれる個人情報流出事件もあり、委託先として適切かどうかの指摘もあります。

専門家

学校教育制度が始まった当初にあった教師の主観的な絶対評価の時代から、心理学の発展と共に心理測定の理論が登場し、評価の信頼性(テストに統計的一貫性があるか)と妥当性(測定したい能力を的確に捉えられているか)が問われるようになっています。
教員や指導主事など教科の専門家以外の、社会調査や教育測定、サンプリングを行う専門家とされる、教育社会、教育政策、教育評価、統計、情報処理などの学者の関与が少ない、知見が生かされていないとの指摘もあります。

学力の評価方法

PISAでは、低学力から高学力層まで幅広く対応できる問題が数多く揃っているのに対し、全国学力調査のでは、時間的制約もあり問題数は少ないとされ、調査によって得られる学力の解像度が低いとの指摘もあります。

自治体による独自調査

都道府県や市区町村による独自調査は、2007年からの全国調査以前から広がりはじめ、2006年度には52自治体での実施となっています。その背景には、ゆとり教育に対する見方の変化、エビデンスベースでの政策、自治体による教育振興基本計画の策定努力義務など様々な要因があるといわれています。

全国調査のスタート以降は、調査の役割が重複の懸念、全国調査の事前演習などの指摘もあり、実施自治体数にも増減があります。また、文部科学省が公表する実施自治体の状況は、2018年度が最後となっています。

国以外の調査として、都道府県、市区町村独自学力調査を実施する場合は、地域住民や関係者に対し、独自調査の必要性や意義を説明していくことが大切だと思います。
また、自治体だけの議論でなく「全国調査は政策立案に生かすものと位置付け国際調査同様、数年に1度の抽出方式」「自治体調査は、学校、教員、児童生徒に課題把握や授業改善につなげる調査で毎年」を検討するなど、学力調査のあり方についての大きな議論がまとまり、より合理性の高い学力調査の実施が望まれます。

教科テストの廃止

80万人超の児童生徒が対象となる東京都では、2022年度からは教科テストがなくなり、学習習慣などを尋ねる質問紙調査のみとなり、調査結果は、市区町村教委や各小中学校の判断で活用としています。今後は、質問紙調査をデジタル端末を使って好きな時に回答できる方式に変更するとしています。

全国調査対象外の科目

独自調査では、全国調査の対象外である理科や社会の調査の実施するケースもあります。
福井県とさいたま市は、特徴的な枠組で行う問題、山形県は教科の枠を超えた総合型や合教科型の問題でを実施するなどの例もあり、全国調査と独自調査を有効に組み合わせた取り組みがあります。

独自調査の中止

滋賀県は、全国調査調査が始まった2007年に役割重複念などを理由に独自調査を中止、2016年度に再開後、2022年度に再び中止しています。
青森県は、全国調査との役割重複の懸念などを理由に、2023年度から独自調査を中止しています。

参考文献
文部科学省 全国学力・学習状況調査の概要
北野秋男わが国の学力調査体制の実態と課題
文部科学省 委託研究 学力調査を活用した専門的課題分析に関する調査研究 研究成果報告書 国立大学法人東北大学(平成22年度)
国立教育政策研究所委託 全国学力・学習状況調査のCBT化に向けた教育アセスメントの先行事例に関する調査研究(令和3年度)
戸澤幾子 全国学力調査をめぐる議論(2009)

全国学力・学習状況調査

保護者と地域
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