文科省は、教職調整額の4%から13%への引上げを要求
教職調整額 文科省と財務省
教職調整額をめぐる対立
文部科学省は、教職調整額の4%から13%への引上げを要求
2025年度予算の概算要求
教職調整額は、勤務時間の長短にかかわらず、教員の勤務時間を包括的に評価するものとして、給料の4%を支給するもの。文部科学省は、教職の魅力を向上し、教師に優れた人材を確保するため、人材確保法による処遇改善後の優遇分を超える水準となるよう、教職調整額の13%への引上げを2025年度予算の概算要求に盛り込んでいます。
文科省 | 財務省 | |
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教職調整額 | 4%から2026年度に 13%へ一度に引き上げ |
残業時間減に伴い段階的引き上げ 10%の時点で、残業代制度へ切り替え |
残業時間削減 | 将来的には月20時間程度へ | 2030年度頃に月20時間に削減 |
公費所要額 | 13%引き上げ(1,080億円増) | 1%引き上げで年120億円増 |
人員拡充 | 教科担任制の拡大 約7,700人増 |
負担の大きい業務の削減を優先 |
残業時間を減らしながら進めるべきだと主張する財務省
11月11日の財務省資料
2024年11月11日に財務省が公表した財政制度等審議会(財務相の諮問機関)分科会の資料では、
本来、業務を所定内の勤務時間(週38時間45分)に収めていくことを目指すべきであるが、現在の教員の勤務実態及び、「働き方 改革」「メリハリ」「効果」といった観点からは、一定の「集中改革期間(例えば5年間)」に「学校業務の抜本的な縮減」を進める仕組みを講じ、その上で、労基法の原則通り、やむを得ない所定外の勤務時間にはそれに見合う手当を支給することが、教職の魅力向上につながるのではないか説明しています。
- 時間外在校等時間は減少していない。
- 残業時間減に伴い、教職調整額10%を目指して段階的に引き上げる。
- その際、時間外在校等時間が一定の水準を下回ることを条件とし、働き方改革のインセンティブとする。
- 10%に達する際に、教職調整額を廃止し、所定外の勤務時間に対する残業代制度へ切り替える。
文科省は教育の質担保には「人員増もセットで」と反論
財務省資料に対する文部科学省の見解
財政制度等審議会の資料に対し、文部科学省は同日に見解を公表し、2016年以降、教師の時間外在校等時間が約3割縮減している事実を提示し、いじめや暴力行為事案が過去最多となるなど学校が抱える課題が多く発生している状況で、「教職員定数の改善等の支援も行わず、勤務時間の縮減を給与改善の条件とする提案は、必要な教育活動の実施を抑制し、子供たちに必要な教育指導が行われなくなるなど、学校教育の質の低下につながる」と反論しています。
簡単に言えば、勤務時間が減らないと教職調整額を上げないとする財務省、給特法は変えずに教職調整額だけ大幅増を求める文科省という構図です。
財務省の方針では、業務量は変わらないままでは、残業隠しや持ち帰りの残業が増える可能性や、残業代が上限を超えた場合の費用は自治体が負担するため「自治体の財政力の差によって教育格差が生じる」との指摘もあります。文科省の方針では「定額働かせ放題」の現状が解消しない可能性があります。
一方で、財務省資料のあげている資料やEBPMベースの指摘にも納得できるものがあり、文科省が人員増を掲げていることにも賛同できます。国の礎たる公教育の議論がしっかりとなされることを期待します。
財務省の案
- 時間外在校等時間は減少していない。
- 教職調整額を10%を目指して段階的に引き上げる。
- その際、時間外在校等時間が一定の水準を下回ることを条件とし、働き方改革のインセンティブとする。
… 所教職員定数の改善等については、一切示されていない。 - 10%に達する際に、教職調整額を廃止して、所定外の勤務時間に見合う手当を支給する仕組みに移行する。
… 所定外の勤務時間に見合う手当に対する国庫負担は、中教審答申と整合的に月20時間を上限とする。
- 本来、業務を所定内の勤務時間(週38時間45分)に収めていくことを目指すべきであるが、現在の教員の勤務実態及び、「働き方改革」「メリハリ」「効果」といった観点からは、一定の「集中改革期間(例えば5年間)」に「学校業務の抜本的な縮減」を進める仕組みを講じ、その上で、労基法の原則通り、やむを得ない所定外の勤務時間にはそれに見合う手当を支給することが、教職の魅力向上につながるのではないか。
- ただし、他の公的部門の状況も踏まえた持続的な賃上げを後押しする観点も踏まえ、「集中改革期間」において、財源の確保を前提に、経過措置的に教職調整額を引き上げる場合には、
(案) 10%を目指して段階的に引上げつつ、10%に達する際に所定外の勤務時間に見合う手当に移行することを検討することが考えられる。
※移行による影響に留意する観点から、業務負担に応じたメリハリのある新たな調整手当の枠組みも併せて検討。 - その際、ただ引き上げるのではなく、以下のように働き方改革の進捗を確認した上で引上げの決定を行う仕組みを付与し、働き方改革に取り組む強力なインセンティブ付けとしてはどうか。
働き方改革が進捗せず引上げが行われないこととなった場合は、その時点で原因を検 証し、外部人材の配置等その他のより有効な手段に財源を振り向けることとする。
働き方改革の進捗と調整額引上げのイメージ
一定期間ごとに以下のような働き方改革の進捗を確認した上で、引上げの決定を行う。移行による影響に留意する観点から、業務負担に応じた メリハリのある新たな調整手当の枠組みも併せて検討。
移行期(R07〜R11)
- いわゆる「3分類」の厳格化及び外部対応・事務作業・福祉的な対応・部活動等について更なる 縮減・首長部局や地域への移行による授業以外の時間の抜本的縮減
- 勤務時間管理の徹底
- 校務DXの加速化による業務の縮減
- 長期休暇を取得できるような環境整備
- これら取組の結果としての時間外在校等時間の縮減
2030年(R12年度)
10%に達する際に、 所定外の勤務時間に見合う手当への移行を検討財務省が指摘する問題点
財務省は「文教・科学技術」資料2(2024年11月11日)で、「教職調整額13%」(文科省要求)には、以下の問題点あるとしています。
① 働き方改革:実効性のある学校業務の縮減策と連動していない。
- 13%(文科省要求)の教職調整額は月26時間(=年312時間)の時間外在校等時間に相当し、労働基準法の上限年360時間に迫るもの。
- 中央教育審議会答申の「教師の平均の時間外在校等時間を月20時間程度に縮減」という目標との整合性に欠ける。
② メリハリ:各教員の在校時間に差があるが、その差に応じたメリハリがない。
- 時間外在校等時間にかかわらず一律(定率)に支給されてしまう。
そのため、時間外在校等時間が0時間でも、月26時間分が支給されることになる。 - 教師人材確保という観点からは、(教職調整額が定率支給のため、)比較的給与が低い若手教員よりも、給与が高い中堅・ベテラン教員の方が増額となる点も課題。
③ 効果:①②の問題を抱えるため、必ずしも教職の魅力向上につながらず、効果に乏しい。
- このほか、5,600億円程度/年(4%から13%に引き上げる場合の公費所要額)の安定財源も示されていない。
「(略)将来的には、教師の平均の時間外在校等時間を月20時間程度に縮減することを目指し、それ以降も不断の見直しを継続すべきである。」
①については、教師の平均の時間外在校等時間を月20時間程度に縮減という文言があり、これとの整合性に欠けるとの指摘をしており、文科省が13%という数字を出した根拠を示す必要があると思います。
②については、時間外勤務が多いとは言え、定時退勤する教員も一定数いる事実もあります。そうした教職員も含めて、13%の調整額は税金のムダであると言わざるを得ません。
また、教師人材確保という言葉からは、一般的に若い世代を対象と考えます。
教職調整額を増額したところで、教職調整額は基本給に対して上乗せされる仕組みのため、その恩恵を大きく受けるのは若い世代ではなく、基本給が高い中堅・ベテランだとの指摘は納得できます。
③については、業務量自体は削減しない限り、教職調整額を増額したところで、教職の魅力向上につながらないと考えます。学校・教師が担う業務に係る3分類の徹底などが望まれます。
文部科学省の反論
財務省が時間外勤務を減らすことを条件に、教職調整額を段階的に引き上げる案を、2024年11月11日に示したことに対し、阿部俊子文部科学相は翌日、「乱暴な議論だ」と批判し、文科省は同日に財務省案への反論を掲載しています。財政制度等審議会 財政制度分科会資料(義務教育関係)に関して
- 2016年以降、2019年の給特法改正による「上限指針」の策定や教職員定数の改善等に加え、学校や教育委員会の努力もあり、教師の時間外在校等時間は約3割縮減した。
- 教育を行うのは「人」であり、教職員定数等の充実のための財政措置が不可欠。
教職員定数等の充実をすることなく、単に学校現場の業務縮減の努力のみを もって学校における働き方改革を進めようとする提案は、学校現場への支援が欠如。 - 学校における働き方改革加速化のインセンティブとしては、自治体ごとの在校等時間の公表を制度化するなど、長時間勤務を縮減するメカニズムの構築を行う。 一方で、いじめや暴力行為への対応をはじめ対応しなければならない課題が多く発生し、時間外在校等時間の縮減が容易ではない地域や学校も存在するにもかかわらず、教職員定数の改善等の支援も行わず、勤務時間の縮減を給与改善の条件とする提案は、必要な教育活動を実施することがためらわれ、子供たちに必要な教育指導が行われなくなるなど、学校教育の質の低下につながる。
- 仮に残業代を支給する仕組みに移行すれば、勤務時間外の業務に逐一管理職の 承認が必要になるなど、教師の裁量が著しく低下し、創意工夫を発揮しにくくなる。
- 残業代支給の国庫負担に上限を設けることは、自治体に負担を転嫁するもの。
義務教育に対する国の責任を果たせず、自治体の財政力の差によって教育活動の量に差が生まれ、教育格差が生じる。
残業が自発的な勤務であるとしている状態では、残業を抑制するインセンティブが働かず、残業は減らないと考えます。財務省案は、将来的な残業代支出への意向を示しています。
教育現場における優先度の低い業務はやめるか外部委託する方向への検討を進めること、管理職や教員が一丸となってより一層の働き方改革に取り組むことで、教育職員の労働環境が大きく変わるのではと考えます。
来年度の予算案の編成は例年、12月下旬に財務大臣と各大臣による閣僚折衝が行われてまとまります。今後、文部科学省と財務省の間で財源のあり方も含めて議論が本格化すると思います。
文科省は法案を提出することができても、法案を成立させるのは国会です。省間だけでなく国会でも、深刻な教員の労働時間が削減できるのか、子どもたちの教育環境が向上するのか、教育現場だけでなく労働法的な専門性のある検討を期待します。