キャリア教育における課題とは? 保護者として地域や企業の一員としての理解とサポートも重要
キャリア教育に必要とされるものは、時代の変化と共に変わっていきます。行政には、課題や今後の方向性を示すことが求められています。
子どもたちが将来明確な職業観と勤労観をもって社会に出られるようなキャリア教育環境を目指し、保護者としても、地域や企業の一員として、子どもたちのキャリア教育サポートしていくことが重要です。
子どもたちが将来明確な職業観と勤労観をもって社会に出られるようなキャリア教育環境を目指し、保護者としても、地域や企業の一員として、子どもたちのキャリア教育サポートしていくことが重要です。
作成:2024/01/04 更新:2024/02/01
下記を参考しています。
- 文部科学省 国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター これまでのキャリア教育推進施策の展開と課題(2002年)
- 文部科学省 国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター キャリア教育が促す 学習意欲(2014年3月)
- 文部科学省 中央教育審議会答申 今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について 抜粋(2011年)
- ベネッセ教育総合研究所 キャリア教育・就職支援の現状と課題に関する調査 調査報告書 結果概要(2010年)
キャリア教育の歴史と背景
キャリア教育推進の歴史
キャリア教育という文言が中央教育審議会答申に登場し、その必要性が提唱されたのは、1999年12月です。
現在の課題を知るためには、これまでどのような方針のもとキャリア教育が進められてきたのか理解する必要があります。
そこでは、若年者の雇用問題を「深刻な現状と国家的課題」として認識し、政府全体としてその対策を講ずる枠組みの中に位置付けています。
現在の課題を知るためには、これまでどのような方針のもとキャリア教育が進められてきたのか理解する必要があります。
答申では、新規学卒者のフリーター志向の広がり、若年無業者の増加、若年者の早期離職傾向などを深刻な問題として受け止め、それを学校教育と職業生活との接続上の課題として位置づけた上で、キャリア教育を提唱しています。
2003年6月、文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣及び経済財政政策担当大臣からなる「若者自立・挑戦戦略会議」がとりまとめた「若者自立・挑戦プラン」でも、キャリア教育の推進は重要な柱の一つとなっています。そこでは、若年者の雇用問題を「深刻な現状と国家的課題」として認識し、政府全体としてその対策を講ずる枠組みの中に位置付けています。
学校でのキャリア教育は、文部科学省も2004年の予算措置から始まりましたが、当初は、勤労観や職業観を説くなど、若年者の就職を目的にした教育が行われ、キャリアについての包括的な教育ではないとの批判もありました。
その後「市民として、地域住民として生きるための幅広いキャリア発達」「学校で学ぶこととキャリアの関係」などへの理解が進み、
2020年度の新学習指導要領では、学校での学びと自分の将来がつながっているという教育になっています。
キャリア教育推進の背景
キャリア教育推進された背景には、日本に生じている2つの大きな課題が関係しています。
キャリア教育の現状を見ると
キャリア教育と職業教育
キャリア教育と職業教育
キャリア教育と職業教育の違いについて、文部科学省の定義を参考にしてみましょう。
職業教育は、具体的な職業人としての能力開発なのに対し、キャリア教育は、職業教育を含んだ広意義での意識、知識、能力、技能開発だと言えます。
職業教育は、具体的な職業人としての能力開発なのに対し、キャリア教育は、職業教育を含んだ広意義での意識、知識、能力、技能開発だと言えます。
育成対象の能力
キャリア教育 | 一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度 |
職業教育 | 一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度 |
教育活動
キャリア教育 | 普通教育・専門教育を問わず様々な教育活動の中で実施される。職業教育も含まれる。 |
職業教育 | 具体の職業に関する教育を通して行われる。この教育は、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度を育成する上でも、極めて有効である。 |
キャリア教育と職業教育の基本的な考え方
- 幼児教育から高等教育にかけて体系的、かつ実践的に職業人に社会・職業との関連を重視した基礎的・汎用的能力を身に付ける。
- 学校において基礎的、発展的な能力開発、仕事に向かう意欲や態度の育成などを行い、体系的に職業教育への道筋を整備。
- 学校が生涯にわたって社会人、職業人としてのキャリア形成の支援の場であるための機能充実を図る。
方向性と視点
キャリア教育は、幼児期の教育から高等教育まで体系的に進めることの中心として基礎・汎用的能力を確実に育成するとともに、社会・職業との関連を重視し、実践的・体験的な活動を充実することとされていて、重要な視点として、2点があります。
- 仕事をすることの意義や、幅広い視点から職業を考えさせる指導を行う。
- 社会的・職業的自立や社会・職業への円滑な移行に必要な力を明確化する。
明確化する必要な力とは、以下の5要素です。
- 基礎的・基本的な知識・技能
読み・書き・計算などの知識・技能といった能力である。 - 基礎的・汎用的能力
分野や職種にかかわらず、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力である。- 人間関係形成・社会形成能力
- 自己理解・自己管理能力
- 課題対応能力
- キャリアプランニング能力。
- 論理的思考力・創造力
物事を論理的に考え、新たな発想などを考え出す力である。 - 意欲・態度及び価値観
学習や学校生活に意欲を持って取り組む態度や学習内容に関心を持つこと。 - 専門的な知識・技能
将来を展望しながら必要な専門性を選択肢、それに必要な知識・技能を育成すること。
4領域8能力の枠組
中教審答申に先立ち、研究会では、海外のモデルが検討され、試作として取り上げられたのが、下の図の左側の4領域8能力の枠組みです。その後、日本の実情を考慮し、図の右側の4つの基礎的・汎用的能力なのです。
![4領域8能力](/img_scog/g302/chart1.webp)
出典:文部科学省 キャリア発達にかかわる諸能力(例)」(4領域8能力)の開発過程について
基礎的・汎用的能力
キャリア教育に関する課題
キャリア教育における課題
キャリア教育については、その必要性や意義の理解が学校教育の中で高まってきており、実践の成果も徐々に上がってきています。
確かに職場体験活動は、実際の経験を通して様々な学びができる重要な実践方法ですが、職場体験に依存した指導方法だけでなく、様々な教育活動を通してキャリア教育が実践されるべきだと考えます。
この事は、小学校や中学校、いわゆる進学校と呼ばれる高等学校における体系的なキャリア教育の推進が、当初遅れた一因ともなったと指摘されています。
キャリア教育担当の教員
小学校から大学まで、キャリア教育を専門とした指導教員、職員はほとんどいないのが現状です。
例えば、高校では進路指導の先生、大学ではキャリアセンター職員が在学学生の進路に関する業務を行なっています。しかし、高校卒業後の進路や大学卒業後の就職先で実績を上げることを主たる目的とした業務です。
最近では、大学のキャリアセンターも低学年キャリア教育に取り組む大学も増えてきましたが、就職活動の対策ではなく、低学年を含めてキャリアについてプログラムを企画、運営する専任の担当者がいる大学は少ないのではないでしょうか。
また、キャリア教育を「新しい教育活動を指すものではない」としてきたことにより、従来の教育活動のままでよいと誤解されたり、一人一人の教員の受け止め方や実践の内容・水準にばらつきがあることも課題としてうかがええます。
職場体験活動への焦点化
現場では、キャリア発達を促すためには「体験活動」が最も効果的との認識が広がり、職場体験活動の実施をもってキャリア教育とを行なったとする傾向もありました。確かに職場体験活動は、実際の経験を通して様々な学びができる重要な実践方法ですが、職場体験に依存した指導方法だけでなく、様々な教育活動を通してキャリア教育が実践されるべきだと考えます。
文部科学省が2005年度に「キャリア・スタート・ウィーク」事業を開始し、中学校における5日間連続の職場体験活動を推進するための全国キャンペーンを展開、2008年度まで継続し、4年間合計で11億円を超える予算措置を講じています。
キャンペーンの効果は大きく、2008年度の実施率は96.5%、5日以上の実施がそのうちの20.7%となっています。
出典:国立教育政策研究所 職場体験・インターンシップ実施状況等調査
キャリア教育に対する誤解
キャリア教育は「フリーターや若年無業者の増加防止対策である」と誤解される傾向もありました。この事は、小学校や中学校、いわゆる進学校と呼ばれる高等学校における体系的なキャリア教育の推進が、当初遅れた一因ともなったと指摘されています。
職業教育における課題
企業における課題
収益化の難しさ
ビジネスとして教育や就職に関わる企業も多いですが、その中でも「キャリア教育」をメインとして事業展開している企業は多くありません。
ビジネス参入企業から見た場合に顧客となる、学校・子どもたち・企業のキャリア教育に対する認識は、緊急度の高い領域ではないとの考えもあり、キャリア教育は、企業による収益化が難しいとされています。
キャリア教育の評価も難しい部分があり、参加人数を基準にしている場合もあります。
キャリア救育を継続するには、学校卒業後の実践の場として、学校と企業の連携が必要ですが、キャリア教育事業を立ち上げても持続的に拡大することが難しいと指摘されています。
キャリア教育の評価も難しい部分があり、参加人数を基準にしている場合もあります。
担当者の負担
キャリア教育を行うには、企業の担当者に負担がかかるという課題もあります。
キャリア教育の代表的な手法であるインターンシップは、多くの企業では採用担当者が担います。
採用担当者による主目的ではないインターンシップに関する対応、また、学生受け入れに協力する各部門に生じる負荷を企業してどう考えるかも課題といえます。
学生における課題
周囲からの視線
子どもたちが、積極的にキャリア教育に取り組むと、友人との会話の中には将来に関する発言や意見もでてきます。
本来は、そこで友人同士で理解や共感が生まれるべきですが、周囲からは「意識高い」と言われてしまう場合もあります。この場合の「意識高い」は、否定的なニュアンスが強く、周囲から浮いてしまうこともあります。
キャリア教育に真剣に取り組みたくても周囲の目が気になるとの声もあります。
下記の統計数値などは、国立教育政策研究所の統計資料を参考にしています。
学校における課題
学校現場では、教職員の長時間労働が大分前から問題視されてきました。文科省も解決に向けて取り組んでいますが、まだ十分な成果をあげられていません。
専門スタッフや外部人材の配置が考えられますが、予算化が進んでいない現状です。専門スタッフとしてサポートする企業側も、収益に結びつくかどうかは難しい課題です。
専門スタッフや外部人材の配置が考えられますが、予算化が進んでいない現状です。専門スタッフとしてサポートする企業側も、収益に結びつくかどうかは難しい課題です。
小学校
中学校
高等学校
大学
キャリア教育の充実に向けた対策
文部科学省による教育課程への位置付け
中途退学者や無業者への支援
教育コーディネーターの役割
教育コーディネーターには以下の役割が期待されています。
- キャリア教育プログラムの開発、提案、マネジメント
- 学校教育と産業界の橋渡し(キャリア教育は、学習指導要領に沿った系統学習ではなく、学校・地域・企業による協働プロジェクト)
- キャリア教育の意義や効果についての地域や保護者への広報活動
キャリア教育とSDGs
SDGs目標4は、2030年までに「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」を目標としています。
目標4のターゲット4.4には、「2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事および起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。」とあり、キャリア教育の充実とそのものと言えるのではないでしょうか。
SDGsにおいて「質の高い教育」は他のすべての目標実現の前提になります。
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更新:2024年7月20日